4話

「あの…これ。なんですか?」

 白衣姿の男はひょうひょうと答えた。

「クルマ。」

 僕はもう一度、目の前のものを見る。

「えっと…これが?」

「うん、そうだよ。これが、我が革命軍がほこる『水陸両用蒸気式走行戦車』だ!」

 箱のような黒い車体。側面には六つの巨大なタイヤ。そしてクルマの正面に取り付けられている、あれは…砲台?たしかにそれは戦車だった。

「すごいだろ。僕が改造したんだ。暇だったからね。」

 革命軍本拠地であるバーの地下一階。そこには薄暗く柱に囲まれたコンテナのような空間が広がっており、そこにこの車が置かれていた。

飛び出している歯車によって原型をとどめていない戦車の車体を手でなでながら、革命軍の一人、ハリー・スミスは言った。

「どうだい?かっこいいだろ。」

「はい…まあ。構造には興味があります。」

「だろ?せっかくこんなカッコいいものがあるっていうのに、アメリアやホワイト君はまったく興味を示さなくてね。理解ができないよ。」

 彼は仲間を見つけたような、どこか弾んだ声を響かせた。

「そして今回、君にたくされた仕事は…」

「はい…」

「僕と一緒に車の改造作業をやってもらうよ。いいかな。」

 彼は、僕の返事を聞くそぶりも見せずに、待ちきれないとばかりに工具をあさり始めた。


   *


 広い空間に金属のこすれる音が響く。僕は仰向けに寝転がりながら、車体の下にもぐり込んだ。

 そこには大小様々なパイプがひしめき合っており、精密機械のような装いだった。

「そこの奥の基盤を外してくれ。」

 僕の隣で同じように車体の下に体をねじ込んでいるスミスは、指示をだす。

 彼の頭の中にはもう完成図があるようで、何の迷いも無く、パイプと歯車を動かしていく。

 僕は彼の指示に従いながら、この不思議な機械を眺める。一見複雑な構造だが、基本は蒸気機関。僕にも理解できるはずだが…

「あの…」

 ふと疑問に思った。

「マナ機構は使わないんですか?」

 こんなに巨大な機械を蒸気機関だけで動かすのには違和感がある。マナは空気中に存在する無尽蔵の資源だ。マナの技術が浸透した現在において、マナ機構は基本的な動力だ。蒸気機関と組み合わせるスチームマギアも普及しており、単純な機構なら簡単に手に入れられるはずだが…

 そういえば、ここに来てからマナ機構のものを目にしていない。スチームマギアの技術は、ここ数年で日常生活に浸透してきたにも関わらず、革命軍本部にあるのは全て蒸気機関、もしくは歯車機構だった。

「君…ホワイト君から何も聞いてないの?」

「え…?」

 彼はパイプたちに目を向けながら続ける。

「はぁ…、何も聞いていないんだね。まったく、ホワイト君はどうしようも無いね。」

 まるで彼女の悪口を聞いたようで、少しムッとしてしまった。

「マナを使わないのには何か理由があるんですか?」

 彼は一息おいてから、続けた。

「じゃあ、僕が教えてあげるよ。君も疑問だっただろ。どうして革命軍にはマナ由来のものが無いのか。どうして不便でも蒸気機関を使い続けるのか。そもそも『革命軍』とは何なのかをね。」


 彼の話は、のちの僕の人生に大きな影響を及ぼすものになった。

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