Ⅲ
革命軍。
魔法使いアリス・ホワイトによって設立され、ここ、ロンドンに本拠地を構える反政府組織。階層社会に反発し、技術革新に溺れた世界を打倒する。治安維持、諜報、時には暗殺までもこなす。メンバーはたった九人。強い意志のみで集まった彼らは、強固な絆で結ばれている。
ドレッドヘアーの黒人女性は、そう説明してくれた。
僕は部屋の真ん中に置かれた椅子に座らされ、革命軍と呼ばれる人達の視線を一緒くたに集めていた。
この部屋には僕を除いて五人の人物。
まずは自己紹介しなくちゃねと、黒人女性は僕の前に立った。
「アメリア・トンプソンよ。ここではアサシンとして暗殺を担当してるわ。アメリアって呼んでちょうだい。」
長身の黒人女性、いや、アメリアは優しい笑顔を僕に向けた。いかにも暗殺者というような、肌に密着した黒い服を身につけていて、腰にはたくさんのナイフがついていた。アサシン…ということは人を殺す…僕は彼女の笑顔に少しだけ萎縮しながら、差し出された手を握った。
次に現れたのは、先ほどカウンターで会った屈強な男性。
「俺は…さっきも言ったな。レオ・ウィリアムズだ。主に、諜報活動を担当している。まあ、見た目の通り、暴力関係も俺の担当だな。よろしく。」
大きくて堅い手を握り返す。大きな熊のようだった。
続いて、丸眼鏡で白衣姿の白人男性。
「やあ、こんにちは。いや、時間的におはようかな?ははは、じゃあ、おはようにしよう。では、僕の自己紹介。ハリー・スミスだ。ここでは…大体雑用かな、僕の仕事は。あと、マナの研究者だ。よろしくね。」
いささか腰の軽そうな男は、フラフラと、また自分の机に戻っていった。
最後に現れたのは、まさしく、ゴシックロリータを想像させるような少女。まだ十歳ほどに見える彼女は、黒のドレスに白のフリルを揺らしながら、僕の前に立った。手には二丁の拳銃を持っている。
「私はイザベル・ベイカー。レオと同じ、諜報担当ですわ。これからよろしくお願いいたします、新入りさん。」
淑女の笑顔を見せ、礼儀正しくお辞儀をする彼女に見とれてしまった。拳銃は気になるが、彼女に合わせてお辞儀をした。
全員の自己紹介を終え、横で見ていたホワイトが口を開く。
「そしてあたしが、アリス・ホワイト。この革命軍の発足者であり、ここのリーダーよ。わかった?」
彼女が革命軍を作った、ということなのか。少し驚いた。まだ二十歳にも及ばない少女が、こんなロンドンの地下深くで反政府活動を行っている。常人の僕では理解が追いつかなかった。
最後に、僕の自己紹介をした。
「アルベルト・ロックです。ダッドリー出身の時計技師です。えっと…何も分らないままホワイトに連れられて来たんですけど…これからどうすれば…」
顔色をうかがう僕の言葉に、アメリアが返す。
「あんた、蒸気機構とかマナに詳しいの?」
「はい…まあ、少しだけ勉強してたので…」
「じゃあ役に立つわ。壊れた機械の修理とか、新しい技術の開発とか。それと、一番大事なのは…」
アメリアはホワイトの足を一瞥する。
「アリスの足。あんたが直してくれたんでしょ。本当にありがとう。これからも、お願いできる?」
「はい、もちろんです。」
ホワイトを見る。彼女は顔を向こうに向けたまま、服の袖をいじっていた。
「じゃあ、決まりね。改めて。ようこそ、革命軍へ。」
この時から、僕は革命軍になった。郊外でしがない時計技師をしていた頃には想像もしてなかった世界に、今、立っている。確実に言えるのは、「平凡な日々」とはもう会うことはないだろうということ。個性的なメンバーを眺めながら、不思議と、胸は躍らなかった。恐怖と不安。僕にまとわりつくそれは、消えることの無いシミ。
この時、気づかなきゃいけなかった。いや、違和感には気づいていた。こんなにも簡単に、革命軍のメンバーに引き入れられること。こんなにも簡単に素性をさらすメンバー達。こんなにも…物語が順調に進むことに。
*
レオにこれから暮らす部屋を案内され、もう一度、みんなのいる部屋に戻る。
「よし!では、最初の仕事だ。早速やってもらうよ。」
アメリアは威勢よく、僕に向かって言った。
「最初の仕事は…ホワイトと一緒におつかいに行って来てくれる?」
僕の革命軍での生活が始まった。
2話 完
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