「うん、これでよし。多分これで歩けると思うけど…」

 他人に義足を触られるのは初めてだったから、少しぞわぞわしたけど、小一時間、男が私の足に工具を差し込んで、直してくれたらしい。確かに前の感覚に戻っていた。

 私は立ち上がる。男は軽くのけぞった。

「お前。なんで私を助けた!何を企んでるの!」

 男をにらみつける。私を助けたところで、彼には何の得にもならない。なにか裏があるはずだ。お金か、はたまた体か。それとも、もしかして、私の正体を…

「えっと…なにも企んでないよ。ただ、ほっとけなくて…えっと…とっ、とりあえず元気になってよかった。」

 男は私に怯えたように答えた。本当に何も…。確かに嘘を言っているようには見えなかった。

 落ち着いて、私。今重要なのは、追っ手がいないことと、足が治ったことと、それと…

「あんた、機械に詳しいの?」

「えっ…ああ、まあ。時計技師の仕事をしてるんだ。」

 時計技師…

「じゃあ…蒸気機関とかにも?」

「うん…それなりには勉強してたから…えっと…どうして?」

 私は考える。歯車機構や蒸気機関に詳しい…私の足も直した…うーん…。思考をめぐらせる。一番大事なのは、この男を信用できるかどうか。男を見つめる。さっきからの言動からは、敵意を感じることは無かった。…。今は切羽詰まった状況だ。一人でも味方は多い方が良い。…リスクもあるけど、これが今の、みんなにとっての最善かもしれないから…

「あんた…」

「はい?」

 私は意を決した。

「私に着いてこない?」

 男はきょとんとする。。頭が追いついてないようだった。

「えっと…え?」

「だーかーら、これから私と一緒に行動しない?って言ってるの。」

「えっと…どうして…」

「あーもう、面倒くさい!だから、あんたの知識と技術が私たちに必要なの!こんなとこで一人で機械いじってないで、世界に羽ばたくの。ようはスカウトよ、スカウト!分った?分ったなら返事は「はい」よ!」

「えっと…はっ、はい…え…じゃあこのお店は…?」

「そんな仕事やめなさい、もっと凄いことさせてあげるから。いい?」

 今思えば、ただの脅迫だった。でも、それだけ今の私たちにとって必要な人材だった。そう、私たち、「革命軍」には。


   *


「ホウキってある?」

 ベッドに座って男に聞く。

「ホウキって…まあ、掃除用のが…」

 男が持ってきたのは、使い古された掃きぼうきだった。

「これしかないの?」

 イヤイヤ聞く。

「うん…これしか…ホウキって何に使うの?」

 ああそうか、言っていなかった。

「これで空を飛ぶの。私、魔法使いだもの。」

 男はぽかんとする。

「えっと…まほっ…空?」

「そう空を飛ぶの。わかった?」

「はい…」

 男が納得してない様子で返事をする。それもそうか、私もよくわかんないんだもん。

 ホウキにまたがる。うん、これなら…

「後ろに乗って。早く。」

「えっ…あ…うん。」

 男もホウキにまたがった。二人乗りは初めてだけど、なんとかなるか。

「じゃあ、出発するけど。もう二度とここへは帰ってこれないと思うわ。荷物は持った?」

「え?…えええええ」

「言ったでしょ、一緒に行動するって。早く支度済ませなさい。」

 男はホウキを一旦降りて、何やら、せわしなく机をあさる。

「そんなに持ってけないわよ。最小限に。そうだ、工具だけで良いんじゃない?」

「えっと…じゃあ…」

 男は、一つのブリキの箱だけを抱えて、またホウキにまたがった。

「えっと…これからどうするの?」

「窓から外に行くの。黙っててくれる?」

「じゃあ、窓を開けなきゃ…」

「いくわよ!」

 両足に力を入れる。目を閉じて、瞬間、集中する。大気に流れるマナを感じながら、それに身を寄せる。

「しっかり捕まってなさいよ!」

「え!まさか!」


 地面を蹴る。

 体が中に浮いた。

 少女はホウキの感触を確かめて、視線を前に向け…

 そのまま、窓に激突した。

 ガッシャーン

 と音が、ガラスと共に弾けた。

 「夜空に駆ける」

 まさしく言葉の通り、魔法使いは、「夜」の中を飛んだ。後ろに一人の時計技師を乗せて…


「うわ!」


 男の声が聞こえた。

 後ろの少年の声だと思ったが、実は、その声の正体、隣の部屋のアンダーソンという男がガラスの割れた音に驚いて出した声だと、魔法少女は生涯、知るよしも無かった。

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