父の背中を見た。薄暗い部屋の中、なにやらカチャカチャと音がしている。少しだけ開いた扉からのぞき込む。夜も遅かった。

ふと、父が振り返る。

「アリス、起きていたのか。」

 私はしょんぼりした目をこする。

「眠れないのか?」

 私はうなずく。

 父の笑顔が私を夜の不安から解放する。

「…こっちに来て見るかい?」

 うん、と答える。

 父の机にはたくさんの歯車が置かれていた。豆電球に照らされて、きれいな宝石みたいに輝く。私には父が何をしていたのか分らなかったけど、この時間はフワフワしていて、大好きだった。


おとう…さん…


   *


 不意に目が覚めた。電球の燈色が視界をかすめる。頭の整理が追いつかない。

たしか…父の顔が…

いや、私は追われていて…!

ガバッ、と上半身を勢いよく起こす。ここは…!

「おはよう。目が覚めたんだね。」

 男の声。目をやると、そこには一人の青年が机に座っていた。

「っ…!」

 反射的に身構える。なんだこいつ。男をにらみつける。腰の拳銃を手探りで探す。…無い。ちっ、武器は取られたのか。くそ。

「なんだ!なにが目的だ!」

 私は立とうとする、が、足が動かない。

「ああ、無理しちゃダメだよ。今はまだ安静にしてなきゃ。」

 状況を把握しなくちゃ。追っ手から逃げていて…ホウキから振り落とされて…そしてこの男が…

 助けてくれた。

 そして今は知らない部屋のベッドに座っている。

「…ここはどこ?」

 男に尋ねる。

「僕の部屋。覚えてない?君は空から降ってきたんだ。怪我だらけだったから治療しようと思って。でも、君が助けを呼ぶなって言ったから、医者のところにはいけなくてね。そのままにしておけなくて、僕の部屋に運んだんだ。大丈夫だよ、ここは静かだし。安心して。」

 男は笑顔で答える。何とも無防備な表情に少しだけイラッとした。

 状況を確認する。

 私は今まで、ベッドの上で寝ていた。追っ手の気配も無い。今は安全なのか…?

「それと君の足…」

 男は私の足に目を向ける。シーツの間から見えるそれは…

「ああ、義足よ。これ。見てわかるでしょ。」

 ただの義足じゃ無い。鉄と銅でできた、歯車仕掛けの義足。茶色に光るそれは、流通してはいない、特注品だ。歩くたびに金属のこすれる音がかすかに聞こえる。

「こんなロボットみたい…」

 気持ち悪いでしょ、と続ける前に、男が口を開いた。

「うん、とってもきれいだ。」

 っ…!

 一瞬、周りの音が消えた。

 きれい。そう言われたのは、たしか…二度目だ。

 私はこの時、赤くなってたんだろうか。

「よく見せて。」

 と、男が近寄る。

「うわっ!あっ!」

「大丈夫だよ、見るだけだから。あと、怪我…というか、故障してるみたいだから。」

 男が私の義足に触れる。あまりにもまっすぐな目に逆らえなかった。男の言うとおり、先の戦闘で故障したらしい。でも、この義足の修理にはある人が必要なんだ。この足が無いと私は歩くことすら出来ないのに…

「うん…これなら直せそうだね。」

「え…?」

「僕は技術者をやってるんだ。まだ始めたてだけどね。うん…ここの歯車がねじれてるのか…ちょっと待っててね、今、工具を持ってくるから。」

 男はそう言って、何やら机の引き出しを探っていた。「直せる」。その言葉を聞いて面食らってしまった。直して…くれるの…?

 まだこの男のことは信用できないが、今の私にはどうすることも出来ない。唇を軽く噛んで、もう一度、ベッドに横になった。

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