魔法少女と世界時計

sakuna

1話

 薄暗い部屋に、工具と歯車のこすれる音が響く。ベッドと机を置けば、後は扉の開閉スペースしか無い部屋。深夜。机に座り、小さな電球の精一杯な灯りで手元を照らしながら、僕は懐中時計をいじっていた。時計の背を工具で開け、今は大人しくなった中の歯車達を、傷つけないように一つ一つ取り出す。全神経を集中させ、呼吸すらも忘れ、丁寧に、丁寧に、解体していく。まるで爆弾処理のようだ。よほど緊張していたのか、眼鏡に汗のしずくが落ちて、現実に引き戻された。

「ふう…」

 この時計は、隣の部屋に住むアンダーソンのもので、作られてからもう七十年もたっている骨董品だ。歯車のみで精巧に動いている。いや、いたのだけれど、時折秒針が止まってしまう故障にみまわれたため、彼は僕に修理を頼んだ。

 僕は今、「時計技師」の仕事をしている。子供の頃からの夢だった、自分のお店を持つことに成功したんだ。お店と言っても、住んでいるボロボロのアパートの自室を作業場にして、アパートの入り口に「機械の修理やってます」の看板を立てさせてもらってるだけだけど。そうして始めた時計技師、いや、機械技師(時計専門じゃ食べていけないからこの呼び名が適切だろう)の初めてのお客さんが、アンダーソンだった。

 眼前でバラバラになった懐中時計に目をやる。作られてからもう何十年とたっているにもかかわらず、歯車達は未だ、美しい金色の光沢を放っている。僕はこの色が好きだった。しかし最近の時計は、マナを使って、より簡単な構造で作られることが多くなった。マナ、「大気の魔力」と呼ばれるそれの台頭は、僕たちの文明に大きな影響を与えた。無尽蔵に生み出されるそれは、今まで主力だった蒸気機関を上回る性能をほこる。発見されてから約五十年。やっと庶民の生活にも浸透してきたように感じる。

 使われるのは、今までの「蒸気機関」と新時代の力「マナ」を組み合わせた、「スチームマギア」と呼ばれる技術。掃除機械、洗濯機械、自動馬車などに、それが多く使われ、人々の生活をより便利にしていった。

 そんな時代に、僕は機械技師になった。もう時代遅れなことは承知している。

 でも僕には夢があった。世界の中心地「ロンドン」の時計塔で、時計技師として働く夢が。そしていつか、あの人と…

 そんな不確定極まりない未来を夢想していても無駄なだけだよな。夢を見ることならいつでも出来る。今は目の前の仕事を精一杯やろう。

 よし、と心で軽く意気込んでから、僕は再び懐中時計に向き直った。今バラバラになった歯車達をもう一度組み直す作業を迎える。

 アパートの窓から漏れる小さな光は、まるで星のように、翌、日の出まで見ることができただろう。

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