第165話 言葉遣い
美香を追いかけ、慌てて応接室に行くと、美香とケイスケは話している最中だった。
美香はファイルを見て「ん~ 今日中に届けないといけないんだよなぁ…」と声を上げ、ケイスケも「美香ちゃん、今日はすぐ帰るん?」と美香に聞いていた。
「その予定なんだけど… 領収書ってどこかわかる?」
「ユウゴが買いに行ってたから、ユウゴが持ってるかも」
ケイスケはそう切り出し、美香と二人で応接室を後にしていた。
『本当に美香なんだよな? なんか違和感があるんだけど、なんなんだろ?』
そう思いながら作業をしていると、領収書を持った美香とケイスケは応接室に戻り、美香はノートパソコンをセッティングしてすぐ、作業を始めていた。
美香は作業を終えるとすぐに事務所を後にし、美香の違和感に疑問に抱きながら作業を続けていた。
定時後、しばらく残業をしていると、ユウゴがケーキの箱を持って応接室に来るなり切り出してきた。
「なぁ、大地、早く帰ったほうがいいんじゃねぇの? 鍵閉めとくからさ。 ケーキも食っといてやるし」と、何かを企むような笑みを浮かべていた。
「そうだな」とだけ言った後、急いで作業を終わらせ、日報を入力した後、事務所を飛び出した。
マンションにつくと、リビングの明かりがついていて、空腹を刺激するいい匂いが漂ってくる。
慌ててキッチンに行こうとすると、浴室から美香が出てきた。
美香は「おかえり。 遅かったね」と言いながらリビングに行こうとしてしまい、思わず美香を背後から抱きしめた。
「ちょ!」
「…会いたかった …すげぇ会いたかった」
「…それより話あるんだけど」
「何?」
「おなかすいてるでしょ? 食べながらにしよ」
美香はそう言うと、当たり前のように腕からすり抜けてしまう。
私服に着替えた後、美香の並べてくれた食事を食べていると、美香がいきなり「シュウジ君の前で喧嘩しちゃダメじゃん」と切り出してきた。
「え? 誰から聞いた?」
「シュウジ君のお母さん。 フリーで動いてるときに、一緒に働いてたの。 一緒にお迎え行ったら『ねえちゃん、人間に戻れたんだね!』って言われたよ」
思わずスープを吹き出してしまうと、美香はティッシュを渡しながら「あの時はびっくりしたけどね… 妊婦が責任とれってさぁ」と、少し寂しそうに笑いかけてきた。
「やっぱり見られてたんだ」と言いながら食事を終え、ソファにもたれかかると、美香は「見てたよ。 途中からだけどね。 光輝社長が頭下げてきたのも、かなりびっくりしちゃった」と言いながら、食器を片付け始めた。
「兄貴が? マジで?」
「うん。 光輝社長、本当はあのまま親会社に置いておくつもりだったみたい。 でも、約束と違うから… 退職願叩きつけてきちゃった」
「マジで?」
「うん。 『今すぐ大地社長のところに戻すか、このまま受け取るかどっちかにしろ!』って。 そしたら受け入れてくれたんだ。 期限付きだけどね。 もっと早く喧嘩売ればよかったかな?って思っちゃった」
「危ないことすんなよ…」
ため息交じりに言うと、美香はクスっと笑い「シャワー行って来たら?」と言い、食器を持ってキッチンに立っていた。
すぐに浴室へ行き、シャワーを浴びながら、美香が敬語ではなく、ため口で話していることに気が付き『違和感ってこれかな?』と思いながら浴室を出ていた。
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