第129話 危惧

アニメOPを遊びで作り終えた週明け。


朝から兄貴のもとに行き、連休前に大高が更衣室に籠城したことを告げると、兄貴は大きくため息をついた後、「詳しくは聞いてないが、どんな嘘をついた?」と聞いてきた。


「それより、『白鳳からうちに圧力がかかるかもしれない』って話聞いたから、それも報告しておく」


「白鳳? …園田さんか」


「そそ。 元白鳳で、前に外注で頼んでた『松田英寿』さんから聞いたんだけど、子会社のホワイトリリィがクリエーター不足で、かなりやばいことをしてるらしいよ。 今、大炎上してるアニメの前期関係者と元社員を、片っ端からホワイトリリィに引き抜いて、既に使い捨ててるって話。 断った会社は、軒並み仕事が激減してるって」


「松田さんか… わかった。 白鳳のことは任せてくれ。 こっちで何とかする」


その後も兄貴と仕事の話をし、昼前には事務所へ戻った。


しばらく作業をしていると、美香とあゆみが二人で昼休憩に入ろうとした直前、休みのはずの大高が事務所に入り「差し入れで~す。 休憩室に置いておきますね」と言い、休憩室に行ったまま出て来ようとしない。


美香とあゆみはそのまま昼休憩に行こうとしていたんだけど、ふと籠城を崩した際、嘘をついたことを思い出し、「ケイスケ悪い、俺先行くわ」と言った後「美香、あゆみ、食いに行こうぜ。 おごる」と言い、3人で食べに行くことに。


近くの定食屋であゆみに向かい、この前嘘をついたことを言うと、あゆみは「OKOK。 合わせるわ。 つーかマジウケるんですけど」と、大爆笑をするばかり。


「笑い事じゃねぇっつーの」と言いながら食事をとり、事務所に戻るとすぐ、ケイスケがファイルを渡し、仕事の相談をしてきた。


少し話をし、ファイルを受け取った後、休憩室に入ると、大高は退屈そうに携帯を弄っているだけだったんだけど、大高は俺を見るなり「3人なんて珍しいですね」と声をかけてきた。


けど、すかさずあゆみが「社長、美香っちの隣座ってください」と誘導してくる。


「あ、ああ…」とだけ言い、美香の隣に座ったんだけど、美香の戸惑うような反応に、不安ばかりが募っていた。


大高が言葉を発しようとすると、あゆみが「しっかし念願叶ってホント良かったよねぇ。 一時期すんごい荒れてて、マジ怖かったよ?」と言葉を遮る。


「まぁな」と答えつつも、『余計なことを言うんじゃねぇぞ…』と目で訴えていたんだけど、あゆみはこっちを見ながら切り出し始めた。


「高2の時だっけ? 美香っちに告った男ボコったの。 俺の女に手出すな的な?」


「あー… そんなこともあったなぁ…」


「あいつ超しつこくしてたんでしょ?」


「そう… だったかなぁ…」


「ボコったら中退したって言ってたじゃん」


「あゆみ? 昔のことはもういいと思うぞ? 美香が知らないこともあるんだし、掘り返さなくても良いんじゃないか?」


「は? 別によくない? 夫婦なんだから全部知ってても良いんじゃない?」


「あ、そろそろ時間だ。 行くぞ」


逃げ出すように切り出した後、3人で休憩室を出てすぐ、あゆみの頭をファイルでペシっと叩き、「調子乗りすぎ」と口を動かさずに小声で言うと、あゆみは黙ったまま手を合わせてくる。


ケイスケとユウゴが休憩に入ると、休憩室からユウゴの「お前まだ居んの? 邪魔だから帰れよ。 そこに居たら寝れねーだろ? 暇なんか? 帰る家無いんか? 金無いんか?」と立て続けに言う声。


『あ、追い出してる。 そもそもあの時も、ユウゴが動けばよかったんじゃね?』


そう思いながら作業をしていると、大高は不貞腐れたように休憩室を後にし、無言のまま事務所から出て行った。



定時後、ファイルを戻そうと休憩室に入ると、ユウゴとケイスケ、美香とあゆみの4人は、テーブルに置いてあった大高からの差し入れをマジマジと見ている。


「どうした?」と声をかけると、ケイスケが切り出してきた。


「箱はパティスリーKOKOなんだけど、開け口に貼ってあった、賞味期限のシールが一部破れているし、中身はパティスリーKOKOのイチゴタルトじゃないんだよ。 この前食ったとき、ミント乗ってなかったじゃん? これ乗ってるんだよね…」


「絶対にやばい奴だろ?」と言い切る前、ユウゴは意を決したようにタルトを手に取っていたが、口元に持っていくと同時に「変なにおいする…」と声を上げていた。


結局、タルトはゴミ箱へ直行し、ユウゴはがっかりと肩を落としていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る