第101話 罠
浩平がケーキ屋の話を聞き、青ざめた顔でトイレに行った後、美香が携帯を見るなり「やば!」と声を上げた。
あゆみが「どうしたの?」と聞くと、美香は「今日、ライブ放送の日だ!」と声を上げた。
「ライブ放送?」
「うん。 もう解散しちゃったんだけど、イギリスのロックバンドのライブがBSでやるの」
「あ、この前パソコンで見せてくれたルー何とかってやつ?」
美香は「そそ。 予約してくるの忘れちゃった!」と言いながら、慌てて帰り支度を始めていた。
ユウゴが「じゃあ解散すっか」と言ってきたんだけど、浩平がトイレから戻って来ない。
大高の騒ぐ声に耳も傾けず、『この分だけ払って先に行くか』と思っていると、浩平はトイレから出てきて「飲みすぎちゃったかなぁ」と、笑いながら席についていた。
「俺、用事あるから」と言いながら立ち上がると、ユウゴとケイスケも同じように席を立つ。
大高のごねる声に耳も傾けず、支払いを済ませて外に出ると、浩平が店を飛び出し、俺に向かって「ちょっといいか?」と言ってきた。
ユウゴとケイスケをその場に残し、浩平の近くに行くと、浩平はいきなり「買い取ってほしいもんがあるんだよね」と切り出してくる。
「買い取り? 何を?」
「これなんだけどさぁ」
浩平はそう言いながら、ポケットから写真を出してきたんだけど、そこにはマンションの前で俺が美香を抱きしめ、唇を重ねている後ろ姿が写っていた。
「おま… これどうした?」
「この前、飲みに行った帰りにたまたま見かけてさぁ。 兄貴にばれたらヤバいんじゃないのぉ? 5万でどう?」
呆然としながら写真を見ていると、浩平が「ほら。 早くしろよ」と急かしてくる。
しばらく呆然とした後、「持ち合わせがない」とだけ言うと、浩平は「そこにコンビニあるよ? どうする? もちろん、コピーなんかしてねぇよ。 これ1枚だけ。 いらないなら親会社行っても良いんだけど? お前の兄貴、何て言うかねぇ? 下手したら、美香が解雇になるんじゃね? 解雇になったら今度こそ… なぁ?」と切り出してきた。
その一言でブチっと来てしまい、思わず浩平を殴り飛ばすと、慌ててユウゴとケイスケが止めに入る。
「ちょ! 何してんだよ!!」
ケイスケが怒鳴りつけるように言うと同時に、浩平が「殴ったな?」と不敵な笑みを浮かべた後「ま、示談にしてやるよ。 即金なら10万でいいや」と、悪びれる様子もなく言ってきた。
『やられた… ハメられた…』
そう思いながら、黙ったままコンビニに行き、現金を引き出した。
現金を封筒に入れた後、外で待っていた浩平に渡すと、浩平は満足そうに「毎度あり」と言い、店の中へ消えていった。
ユウゴとケイスケの元へ行くと、ケイスケが「事務所行こうぜ」と切り出し、事務所へ戻った。
休憩室に入るなり、二人に事情を話すと、ケイスケが「何してんだよホントに…」と呆れたように言ってくる。
浩平に言われたことを言うと、ケイスケは「なんで渡すんだよ! ほんとバカだな!」と怒鳴りつけてきた。
ユウゴは呆れたように「まぁ無理もねぇだろ。 俺も同じ状況だったら、多分、同じことするし」と言い、ため息をついた後、「その写真見せて」と切り出してきた。
「嫌だ」
「は? なんで?」
「見せもんじゃねぇよ」
そう言いながら頭を抱えることしかできなかった。
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