第100話 諦め
美香の誘いを受けた後、事務所に戻ると、浩平が「そういや美香の歓迎会してないし、ちょうどいいんじゃね? 行こうぜ」と切り出していた。
『は? 何の話?』と思っていると、ケイスケが「美香ちゃんの歓迎会しようってさ」と、呆れながら言ってくる。
「俺パス。 用事ある」と言うと、浩平が「は? 社長が行かないでどうすんの?」と呆れたように言ってきた。
『お前は支払いを任せたいだけだろ』と思いつつも、黙って作業をしていると、浩平とあゆみが「行く」「行かない」でもめ始めてしまった。
「用事があるって言ってんだから、別日にすりゃいいだろ?」と言うと、浩平は「全員集まる日なんてねぇだろ?」と文句ばかり。
「今日は無理だから帰れよ」と言うと、大高が「じゃあここで飲みましょう!」と手を叩きながら言い、浩平もそれに合意したと思ったら「2階の鍵は?」と切り出してくる。
「ふざけんな。 お前らを入れる気はない」とはっきり言いきると、2人は休憩室に消えてしまった。
ユウゴから「どうすんのあれ?」と呆れたように言われ、ため息しか出てこないし、美香は諦めたような表情を浮かべるばかり。
ため息をつきながら「1杯だけ行くか…」と切り出すと、ケイスケは「それしかなさそうだな」と言いながら立ち上がり、大高と浩平を含めた6人は先に居酒屋に向かっていた。
美香にメールをし【ごめん。 遅くなりそう】と送ると、美香は【仕方ないですよ】と短い返事をするだけ。
急いで作業を終え、居酒屋についた後、みんなの座るテーブルを見ると、そこでは浩平と大高が異常に騒いでいるだけで、4人は二人の向かいに1列に並び座っていた。
『また大高の隣…』と思いながらテーブルに近づくと、大高が立ち上がり「社長はこっちです!」と言いながら近づこうとして来る。
咄嗟にケイスケの隣に回り込むと、あゆみが「ユウゴあっち」と言い、ユウゴは大高の隣に座らされ、見るからに機嫌が悪くなっていた。
『ユウゴ、悪い』と思いながらも、ケイスケと話をしていると、あゆみがケーキ屋の話を切り出してきた。
「美香っちさ、この前パティスリーKOKOのプリン買ってきてくれたじゃん? あそこのイチゴタルト食べたことある?」
「あるよ~。 めっちゃおいしかった!」
「あれ超高くない? 1個2000円近いでしょ? ケーキ1個にあれは手が出ないよね」と、あゆみが言うと、浩平が「そんなにするの!?」と声を上げた。
美香は平然と「はい。 1個1800円だったかな? 予約限定のケーキセットだと3500円だったような… あ、かおりさんが言ってたんですけど、店の近くに有人パーキングがあって、そこに車止めたら10分で2000円取られたって騒いでましたよ?」と言い、その金額にドン引きしてしまった。
浩平は急に青ざめた表情をしていたんだけど、ユウゴが「美香、今度連れてけ。 お前のおごりで」と切り出していた。
「嫌です。 高すぎます! 副社長なんだから、たまには可愛い従業員におごってもいいんじゃないですか?」
「うちに可愛い従業員なんていねぇよ。 大体、MVPもらったんだろ? いつもお世話になっている上司に感謝の気持ちはないのかね?」
「その結果プリンじゃないですか! しかも3つも食べたんでしょ? あれ1個600円するんですよ?」
「そんなにすんの!? 信じらんねぇ…」
ユウゴは呆れながら美香と話していたんだけど、浩平君は青い顔のままトイレに行き、しばらく戻って来なかった。
するとケイスケが小声で「あいつ、大高に連れて行くって約束したんだろうな」と言い「たぶんな」とだけ言い、飲み続けていた。
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