第90話 睡魔
かつては自分の家だった美香の家で、自分が住んでいた時よりも綺麗になっている浴室でシャワーを浴びながら、期待に胸を弾ませていた。
『美香良いって言ってたもんな。 大丈夫だよな? やべぇ… 緊張してきた… 酒は1本しか飲んでないけど、美香だから大丈夫だよな。 あ、コンビニ行かなきゃまずくね? 今更ビビるって、ほんとヘタレてんなぁ…』
そう思いながらシャワーを浴び終え、リビングに行くと、美香は立ち上がり、うつむきながら「…寝室でお待ちしていただけますか?」と聞いてきた。
「わかった。 ちょっとコンビニ行ってくるよ」と言うと、美香は黙ってうなずき、逃げるように浴室に向かっていた。
急いでコンビニまで行き、マンションに戻ると、美香はまだシャワーを浴びていた。
『寝室で待ってろって言ってたよな…』
そう思いながら寝室に入り、真っ暗な部屋のベッドで横になっていると、枕から美香の匂いがした。
『めっちゃいい匂いする… この匂い、癒されるなぁ…』
そう思いながらうつ伏せになっていると、自然と瞼が重くなり、必死に睡魔と戦っていた。
どんどん重くなり、今にも瞑ってしまいそうな瞼と必死に戦っていても、美香は姿を現さない。
『風呂長くね? 髪長いからか… いつも艶々で綺麗だし、手入れに時間かけてるのかもなぁ… すっぴんの美香って、昔と変わってないのかな…』
そんな事を思いながら、ハっと気が付くと、カーテンの隙間から太陽の日差しが差し込んでいた。
『え? 俺もしかして寝ちゃってた? 嘘だろ…』
そう思いながらリビングに行くと、美香は私服姿で化粧をし、俺の携帯を持っていた。
呆然としていると、美香は「おはようございます。 今ちょうど、光輝社長から着信がありましたよ」と笑顔で言っていた。
「え? マジで?」
「はい。 あと、大高さんから鬼のように着信が着てました」
携帯を受け取った後、「あ、あのさ… 俺夕べ…」と言いかけると、美香はいたずらっ子のような笑顔を浮かべ「気持ちよさそうに寝てらしたので、そのまま放っておきました」と言うだけ。
「美香はどこで寝たん?」
「ソファですよ」
「あ、そ、そうなんだ… どっか行くん?」
「かおりさんと約束してるんです。 買い物行こうって。 けいちゃんも来るって言ってたかな?」
「そ、そっか…」
がっかりと肩を落としていると、美香は「マスターキーお持ちでしたよね? もう行かなきゃいけないんで、あとお願いしていいですか?」と聞いてきた。
「いや、俺も出るよ」
そう言った後、急いで着替え、顔も洗わないまま二人でマンションを後にしていた。
マンションの前で美香と別れた後、携帯の着信履歴を見ると【大高】の文字ばかり。
『こいつ… ふざけんなよマジで… こいつの鬼電がなかったら、睡魔にも負けなかったのに… 俺の貴重な時間を返せっつーの。 ま、美香のおかげで熟睡できたけどな…』
そう思いながら自宅に戻り、兄貴に電話をすると「今すぐ来てくれるか? 場所はメールする」と言ってきた。
『どいつもこいつも…』
そう思いながら顔を洗っていると、リビングから携帯の鳴る音が聞こえる。
兄貴からのメールを見ると【立花弁護士事務所】と書いてあった。
『弁護士? 浩平の業務上横領? 刑事罰にするつもりか?』
そう思いながら急いで着替え、慌ただしいまま車に乗り込んだ。
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