第87話 疲労

大高の電話攻撃のせいで寝不足になり、頻繁に美香との距離が近いと言われるせいで、かなりイライラした毎日を過ごしていた。


仕事の話をしているだけでも、「近い」と言われ、かなりイライラしているのに、大高は電話で「編集を教えろ」と言ってくる始末。


「週3しか入ってないんだから、学校行くなり何なりすれば?」と言ったんだけど、大高は人の話を一切聞かず「社長の教え方が一番上手だと思うんで、お願いします!」と甘えた声で言うばかり。


毎晩のように同じことを言われるせいで、精神的に疲れ果てていた。



ある日のこと。


資料室で資料を見ていると、突然睡魔に襲われてしまい、立っていることもつらい状態に。


その場に座り込んで、睡魔と戦いながら資料を見ていると、美香は資料室に入ってくるなりしゃがみ込み「大丈夫ですか?」と聞いてきた。


「ああ。 大丈夫だよ」


「顔色悪いし、大丈夫に見えませんよ? ちゃんと睡眠取れてます?」


「明日休みだし、寝溜めするよ」


美香は「うーん」と考えた後、「食事って取れてます?」と聞いてきた。


「一応ね。 何? おごってくれんの?」


「ほら、家賃安くする代わりに、ご飯作る約束してたじゃないですか。 まだいらしてないので、もし良かったらどうかなって。 明日休みですし」


「え? 行っていいの?」


「だって、そういう約束じゃないですか。 もし、いらっしゃるようでしたら、定時までに何がいいか考えといてくださいね」


美香はそう言うとにっこりと笑い、嬉しさのあまり何とも言えない喜ばしさに襲われていた。


「終わったらすぐ行く。 飯はそうだな… 和食… いや、最近、ハンバーグ食ってないな」


「わかりました。 準備してお待ちしてますね。 あ、お酒類がないので、それだけ準備していただけますか?」


「OK。 適当に持っていくよ」


返事を聞いた後、美香は笑顔で立ち上がり、資料を探し始めた。


『美香ってすげぇなぁ… めっちゃ癒してくれんだけど… 下手なドリンク剤より効くんじゃね?』


そう思いながらも立ち上がり、資料を手に作業を始めていた。



定時直前になると、美香はさっさと後片付けをはじめ、ユウゴは物珍しそうに見ながら切り出した。


「もう帰んの?」


「はい。 用事がありますので」


「残業魔のお前が? 男できた?」


「違いますよ。 約束してるだけです」


『違う』と即答されたことに、少し傷つきながらも、美香は定時きっかりに更衣室へ。


するとすぐさま着替え終えた美香は「お先に失礼します」と言い、事務所を後にしていた。


ケイスケはそれを見て「珍しいこともあるもんだねぇ」と言いながら手を動かしていた。


しばらく作業をしていると、大高と浩平が事務所を後にしたと思ったら、二人はほとんどの仕事を残している状態。


美香と約束をしているのに、これをやらないと美香の元に行けないため、急いで作業を続けていた。


ケイスケはそれを見て「これもさぼりに入るんじゃね? 二人とも」と言い、日報に細かく記載。


二人が帰った後も作業を続け、やっとの思いで終わらせたときには21時を過ぎ、精神的にも、肉体的にも、疲労困憊の状態だった。

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