第82話 バカ

美香に明細を渡していると、休憩室のドアを乱暴に開き、怒った浩平が中に入り、俺の前に立つと同時に「少ねぇぞ」と苛立ったように言ってくる。


「少なくはない」ときっぱり言い切ると、美香は後ずさりをするように休憩室を出て行った。


「どこが少なくねぇんだよ! 毎日出勤してるのに、たったの6万しか入ってねぇんだぞ!?」


「自分の行いを思い出してみろよ。 打ち合わせには行ってないし、仕事も取ってこないだろ?」


「交渉中なんだよ! 飛び込みですぐに仕事が取れるわけねぇだろ!?」


「車のメーターが上がってないのは? ガソリンも減ってないし、走行距離も増えてない。 どこで何してんだよ?」


浩平が「そ、それは… 兄貴の見舞いに…」と言いかけると、ユウゴが休憩室に入ってくる。


が、ユウゴは美香の差し入れを持った後、すぐに休憩室を出て行った。


『おい副社、取りに来ただけかよ…』


そう思っていると、浩平は「兄貴が事故ったって言っただろ? もう忘れたんかよ?」と、怒鳴りつけてくる。


「兄貴いないだろ? どこの兄貴の見舞いに行ってんだよ?」


浩平は「そ、それは… 心の兄貴って思ってるやつで…」と、しどろもどろになるばかり。


ため息をついた後「仕事中に見舞いに行くって、さぼってる証拠だろ? 仕事をしないやつに給料を払う余裕はない。 進退は自分で決めろ」とはっきり言いきると、浩平は突然ニヤっと笑い始めた。


「んなこと言って良いの? 美香に昔のこと言うぞ?」


「言いたきゃ言えよ。 別に隠してないし、美香も知ってる」


はっきり言いきると、浩平は悔しそな表情を浮かべ、苛立ったように休憩室を出て行った。


『疲れた…』


そう思いながら大きくため息をつき、事務所に戻ると、ユウゴはケーキの箱に手を伸ばしながら、美香に「な? 言ったろ?」と言い、新しいプリンに手を付ける。


美香は呆れたように「ホント、すごいですね。 それ社長のですよ?」と言っていた。


「ああ、いいよ。 減給しとくから」と言うと、ユウゴは口元にスプーンを置き「出す?」と聞いてくる。


聞こえない振りをし、残りの作業をしていると、美香は「お先に失礼します」と言い、事務所を出て行った。


ケイスケはプリンを食べながら「減給?」と聞き、「そ。 最後通告」とだけ答えた。


するとあゆみが「ねぇ、美香っちに暴露していい?」と聞いてきた。


「なんでそんなに暴露してぇんだよ?」


「仲良くなりたい。 つーか話したい。 女の子一人しかいないんだから、話しちゃってもよくね?」


ユウゴはそれを聞き「もう一人いるぞ? バカ女」と答えた。


「バカ女? バカなの?」


「巨乳バカ女がいる。 あゆみがいない時だけ出社してくるやつ。 この前、自分の胸に大地の手を押し付けて喜んでた」


「なにそれ? 本物のバカじゃん」


あゆみが呆れたように言うと、ケイスケが「ユウゴって巨乳好きじゃなかった?」と聞いていた。


ユウゴは「わかってねぇなぁ… 俺は賢い巨乳がいいの! あちこちに尻尾振るようなバカは無理」と、なぜかどや顔で言い切っていた。


そのまま雑談をしながら作業をしていると、事務所の外から車のエンジン音がし、どこかへ行ってしまった。


するとユウゴが「車いいのか?」と聞いてきた。


「ああ。 GPS仕込んであるし、証拠が増えるだけ。 最悪、懲戒解雇にするよ。 懲戒になったら、転職できなくなるかもしれないけどな」


ユウゴは「こえぇ… プリン返そうかな…」と言いながら笑い、残りの作業をしていた。

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