第63話 静寂

作業を終えた後、私服に着替え、ユウゴとケイスケの3人で食事に行き、軽く飲みながら話していた。


しばらく飲みながら話していると、ユウゴが「募集ってかけてるんだよな?」と切り出してきた。


「かけてるけど、話題に上がらないから、うんともすんともって感じっぽいな」


「大地、お前かなり無理してない? 俺と美香の作業チェックして、CGまでやってるんだろ?」


「他に出来る奴いないし、仕方ないよ」


「美香にCG出来るか聞いたほうがいいんじゃないか? だいぶ元に戻ったし、顔色もいいだろ? できないって言われたら、美香に教えろよ。 俺はやんないけど…」


「落ち着いたら考えるよ」


そう言いながら食事をとっているときに、ふと急ぎの案件を思い出した。


「あ! やっべ! 急ぎでCG来てたんだ!」


急いで食事を掻き込み、自分の食事代をケイスケに渡した後、慌てて事務所に戻った。


事務所で作業をしようかとも思ったけど、そんな気分になれず、休憩室にノートパソコンを設置した後、ビールを飲みながら作業をしていた。


『あれ? ここって前回どうしたっけ?』


そう思いながら資料室に移動し、資料を眺めながらソファに座る。


シーンとした休憩室で、ノートパソコンと資料、そして缶ビールを前に、一人黙々と作業をしていると、徐々に睡魔が襲い掛かってきた。


しばらく睡魔と格闘しながら作業を続けていたけど、とうとう睡魔に負けそうになってしまった。


『30分だけ寝よ…』


そう思いながら休憩室の電気を消し、ソファに倒れこんだ。


ソファに倒れこんだ瞬間、自然と意識が飛んでしまい、綺麗な髪を眺めている夢を見ていた。


『久しぶりにこの夢見るな…』


そう思いながら綺麗な髪を眺め続け、ゆっくりと目を開けると、目の前で綺麗な髪をした美香が、パソコンに向かって作業をしている。


真っ暗な休憩室の中、ノートパソコンだけが光を放ち、美香の顔を照らしていた。


夢か現実かもわからないまま、そっと髪に指を絡ませた時、しなやかで柔らかく、サラサラとした感触に、夢ではないことが理解できたと同時に、美香が普段使っているひざ掛けが、体の上で広がっていることに気が付いた。


『かけてくれたんだ… めっちゃ優しいなぁ…』


そう思いながら、黙ったまま髪を撫で続けていたけど、美香は嫌がることも、拒絶することもなく、髪を撫でやすくするように、少しだけこちらに移動してくれた。


髪を撫でながら「…帰んないのか?」と聞くと、美香は「携帯忘れちゃったんです」と言いながら少しだけ微笑む。


「そっか…」と言いながら髪を撫で続けていると、美香は『もっと触れてほしい』と言わんばかりに、顔を少しだけ上にあげた。


黙ったまま、ずっと触れたかった髪に指を通らせていると、美香の髪はさらさらと指から零れ落ちる。


『すげー癒される…』


そう思いながらも髪を撫で続け、ふとモニターを見ると、途中までしかできていなかった作業がだいぶ進んでいた。


「…CGもできるんだな」


「はい。 前職の時に教わりました」


「そうなんだ… もっと早く聞けばよかったな」


「何でも聞いて良いですよ。 答えられる範囲であれば答えます」


「…体はどう?」


「調子いいですよ」


「…食事ってできるようになった?」


「はい。 まだ食べられないものはありますけど、それ以外は元通りです」


「そっか… 仕事、きつくない?」


「いえ。 家に帰れるだけでありがたいです」


『彼氏いるの?』


そう聞こうと思った瞬間、急に不安になってしまい、言葉とともに手を止めた。


それと同時に美香はうつむき、動こうとはしなかった。

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