第58話 悪影響

石崎さんに自宅前まで送ってもらい、事務所に入ると、ガランとした中で、ユウゴとケイスケ、浩平の3人はかなり険悪な空気を作り出していた。


『揉めた?』


そう思いながら中に入ると、浩平が「いつ社員にしてくれんだよ?」と、吐き捨てるように言ってきた。


立ち上がったユウゴを抑え、「映像編集できるようになったら」とだけ言うと、浩平は勢いよく立ち上がり「営業以外やらねぇっつってんだろ!!」と怒鳴りつけてくる。


「だったら他行けよ。 うちに営業はいらないって言ったよな? 打ち合わせすら行かないような奴は必要ない」


「社員になったらちゃんとやってやるよ」


「信用できないな。 社員になりたいならバイトで結果を出せ」


はっきり言い切ると、浩平は苛立ったように鞄を持ち、何も反論しないまま事務所を後にしていた。


小さくため息をつくと、ユウゴが「飲みに行こうぜ」と切り出し、3人で飲みに行くことに。


テーブル席に着いた途端、ユウゴが苛立ちながら切り出した。


「定時後に男3人で荷物を運ぶ準備してたんだよ。 あゆみは普通に帰ってたんだけど、美香って社員になったじゃん? どうして良いかわかんなかったみたいで、オロオロしてたんだよ。 そしたら浩平が『帰っていいよ? 居ても迷惑だよ?』とかほざきやがってさ。 流石に頭来て『その言い方ってどうなん?』つったら『は? 何が?』とか言いやがってさ。 美香は『お疲れ様です』つって逃げたんだけど、あいつ何もしねぇでダラダラしてるだけだし、ほんとマジむかつくわぁ」


「え? じゃあ二人で運んだのか?」


「そそ。 んで、帰り際に『社員にしろ』とか言ってんだろ? だったら働けよって感じじゃね? マジでムカつくわぁ…」


ユウゴは苛立ちながらもビールを一気に飲み干していた。


するとケイスケが「俺さ、浩平に金貸してって言われたんだよねぇ…」と切り出してきた。


「え? また?」


「うん。 休憩被ったときに『おふくろが入院してるから金貸してくれ』って。 借用書書くならいいよって言ったら、『じゃあいいや』だって。 返す気0ってことだよな?」


「マジか… あいつ、俺がいないことを良いことに好き放題やりまくってんだな」


「そういう事。 新人が入る前に何とかしねぇと、悪影響でしかねぇぞ?」


ユウゴの言葉に同意しかできず、ため息ばかりが零れ落ちた。


『何もかもを捨てて逃げ出したい』って気持ちに襲われたけど、そんな事をしたらユウゴとケイスケ、美香とあゆみのことを裏切ることになってしまうし、現実的に不可能だ。


『美香のために浩平を受け入れたんだし、自業自得か…』


そう思いながらも、得策が思い浮かばず、ため息をつく事しかできなかった。

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