第52話 計画

週末、親父の奥さんにお願いされ、じいちゃんとシュウジの3人でおもちゃ屋に行き、じいちゃんはシュウジにおもちゃを買ってあげていた。


シュウジは舌っ足らずな感じで「じーたん、にーたん」と連呼しまくり、じいちゃんは終始デレデレの状態。


時間になると同時に、じいちゃんは名残惜しそうにシュウジを抱っこした後、車に乗り込んでいた。



週明け、朝の準備をした後、休憩室でユウゴと話していると、美香が休憩室に入ってくる。


「おはようございます。 履歴書と職務経歴書をお持ちしました。 それと、しばらく実家に戻ることにしました」


美香はそう言いながら、封筒を手渡してくる。


ガッカリとしながら「あの家、そんなに嫌?」と聞くと、美香は「いえ、迷惑になってしまうので」と言いにくそうに言ってくる。


『気にすることないのにな…』


そう思った後「わかった。 定期いくらか後で教えて」と言い、事務所に戻った。


事務所に戻った後、美香の職務経歴書に目を通すと【白鳳株式会社入社】と書いてある。


白鳳といえば、数十年前に飛ぶ鳥を落とす勢いで大きくなり、【業界人では知らない人が居ない】と言っても過言ではない程の大企業。


ただ、数年前から勢いがなくなり、業界内では黒い噂がチラホラと耳に入るようになっていた企業だった。


『大企業って白鳳のことだったんだな…』


そう思いながら美香に交通費申請書を手渡した後、親会社に行くために準備をしていた。


美香はすぐに定期代を調べてくれて、その場ですぐに記入し手渡してくる。


『流石。 仕事が早くて助かる』


そう思いながら準備をし「ちょっと兄貴のとこ行ってくるわ。 すぐ戻るけど、なんかあったら電話して」と言った後、事務所を飛び出し、車に乗り込んでいた。


親会社についてすぐ、兄貴のいる社長室へ行き、美香の履歴書と職務経歴書を手渡す。


兄貴は佐山さんを部屋から追い出した後、職務経歴書を見ながら「元白鳳?」と聞いてきた。


「ああ。 浩平が見つけてきた」


「…なるほど。 その為に雇ったのか」


「そ。 浩平は近いうちに切る」


「解雇理由はあるのか?」


「これから作るよ。 営業やりたがってるから、とりあえずやらせてみようと思う。 能力不足で会社が指示した業務ができなかったら、解雇理由になるだろ? うまくいけば業績が伸びるし、うまくいかなくてもあいつを切ることができる。 どっちに転んでも、こっちには旨味しかないはず」


「なるほどな… 最初はうちの営業に同行させよう。 あとはお前の判断に任せる。 それと明日、サンライズが打合せしたいっていうから行ってくれ。 営業の石崎さんが同行する。 詳しくは営業部に行って聞いてくれ」


「わかった」


そう言った後、社長室を後にし、まっすぐに営業部へ向かった。


石崎さんに明日のことを話し、待ち合わせの時間と場所を決めた後、上原さんに美香の交通費申請書を手渡すため、上原さんのいる経理部へ向かった。


経理部に入ると、俺のことを【出涸らし】と言っていた2人の中年女性がおらず、若い女の子と空席があるだけで、兄貴の奥さんの姿はなかった。


上原さんに「経理ってメンバー変わったんすか?」と聞くと、上原さんは俺に顔を近づけ、小声で話し始めた。


「光ちゃんに聞かれてたのよ。 お通夜の時、大ちゃんのことを『出涸らし』って言ってたことが」


「マジで?」


「最初は光ちゃんのことを話してたみたいなんだけど、大ちゃんの話が出た途端、出涸らし扱いしてたらしくて、光ちゃんが怒って全員移動させたの。 あなたたちよりも頑張ってる人間に対して失礼だ。 そんな人間を会社の中枢に置いておけないってね。 元々移動させたがってたし、計画的だったのかもね」


「へぇ~」


兄貴の意外な一面を見たように感じつつも、少しだけ話した後、事務所に向かっていた。

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