第34話 疲れ

美香に電話をした後、1階に戻ると、あゆみがスマホを弄っていた。


「・・・なにしてんの?」


「使い方わかんないから調べてんの」


「パソコンで調べれば?」


「スマホのほうが早い」


当然のようにタメ口で話してくるあゆみよりも、その隣でニヤニヤと笑いながらスマホを弄っている浩平の顔にカチンと来ていた。


すると、ケイスケが「社長に向かってなんて口の聞き方してんの? 敬語くらい使えよ」と苛立ったように言っていた。


あゆみは不貞腐れたように「すいませんでした。 どうやって調べたらいいのか教えてください」とケイスケに言ったまでは良いんだけど、ケイスケも動画編集ができず、教えようがない。


「とりあえず、エクセルとワードから始めてみるか。 ケイスケもそれなら教えられるだろ?」と切り出すと、ケイスケは「了解です」と言い、あゆみに教え始めた。


が、浩平はニヤニヤしながらスマホを弄るばかり。


「浩平、何してんだよ?」


「ん? 調べもの」


「調べもの? なに調べてんだよ?」


「うっせーな。 仕事に関わることに決まってんだろ?」


浩平の言葉にカチンときてしまい、「うっせーだと?」と言いかけると、ユウゴがヘッドフォンを外した後「社長に向かってうっせーとか言ってんじゃねぇよ。 お前、いきなりクビになりたいの?」と切り出した。


浩平は何も言わず、不貞腐れながらもスマホをポケットにしまい込むだけ。


ユウゴは何事もなかったかのように、ヘッドフォンを付けた後、作業に取り掛かっていた。


『俺の立場っていったい…』


そう思いながら、美香の送るデータを整理していた。



定時を迎えるとすぐ、浩平は不貞腐れながら事務所を後にし、大きくため息をついていた。


『あいつ、クビにしたいなぁ… 遅刻欠勤早退はしないし、休憩時間も守るようになったし、簡単な作業は卒なく熟すし、どうしたもんかなぁ…』


そう考えていると、あゆみが「大地、あんたなめられてない?」と切り出してきた。


「かなりな」


「一回キレた所見せれば? ユウゴが学校辞めた後、マジ荒れてたじゃん。 あの時みたいにキレたら?」


「パワハラで訴えられるのがオチ。 それが出来てりゃ苦労しねぇよ」


「んじゃさ、見せしめにあたしを怒鳴ったら?」


「は? 見せしめ?」


「そそ。 俺はやばいんだぞって見せつけんの。 あいつヘタレだから効果あると思うよ? あたしなら何言われても平気だし、泣き真似得意だし」


「…そのうちな」


あゆみの提案に、ため息しか出なかった。


浩平は、いつも誰かの陰に隠れて偉そうにしていたし、ユウゴが辞めた後は俺に近づきもしなかったから、確かに効果はあるとは思う。


けど、怒鳴るたり怒ったりすると、無駄に疲れるから嫌で仕方ない。


『効率的に追い出すにはどうしたらいいんだろうな…』


そんな事を思いながら、残った仕事を作業を続けていた。

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