第204話
ミミルが二皿目の料理を食べ始めたのを確認し、ルーヨの煮込みが入った鍋をそのまま焚き火台の上に載せる。
この料理を作ってすぐに鍋ごとミミルの空間収納に入れてあったので、基本的に出すたびに温かいままの状態で用意できるのは変わりない。しかし、調理前に食材をミミルが空間収納から取り出して並べる際、こうした料理も出してもらっているので、少しずつ冷めてしまっている。だから、こうして温め直す必要がある。
先日と同じように濡らしたキッチンペーパーでジャガイモとニンニクを包み、更にラップしたところでマイクロウェーブで火を入れる。
日本国内で一般的な電子レンジの周波数とは違い、俺が使える電磁波は水分子に効率よく働きかける周波数帯。しかも、収束されることで無駄なく効率的に高い出力を得ることができる。
あっという間にジャガイモが蒸し上がり、皮を剥いてマッシャーで潰したら牛乳や生クリーム、塩を加えて練り上げておく。
次の料理の準備ができたところで、テーブルについてオレキエッテを食べる。
最初に広がるニンニクとアンチョビの香り、むっちりとしたオレキエッテの窪んだ部分にソースが舌の上に広がってとても美味い。
噛み締めると潰れたブロッコリー
多めに入れたオリーブオイルの油っぽさやアンチョビの味を、唐辛子の辛味が引き締めてくれるのでいくらでも食べられる感じだ。
そういえば、エルムヘイムの人たちは好き好んで辛いものを食べないと言っていたが、この辛さ……ミミルは平気だろうか。
少し気になったのでミミルの皿の方に目を向けると、この辛さでもほぼ食べきっている。
〈ミミルには少し辛いと思ったんだが、食べられるみたいだな〉
〈いや、流石はしょーへいだ。濃厚な魚の味だけだと飽きてしまうが、この辛味がだるくなった舌を目覚めさせる。よくできた料理だと思うぞ〉
〈そう言ってもらえると嬉しいよ〉
ニコリと微笑んでミミルに返しておく。
俺の反応にミミルは満足したようで、皿の上に残ったオレキエッテをスプーンで掬い、口へと運んでいる。
ミミルからの褒め言葉が並んで本当に嬉しいのだが、オレキエッテとブロッコリーの相性は抜群によく、定番といえる料理だ。誰がつくっても同じものができるほど、洗練されたレシピでもある。
なお、本場イタリアのプッリア州あたりではアンチョビとカブの葉を使って作る、
噛んだときにブロッコリー
明日でダンジョン第二層の攻略が終わる。料理用に開けた白ワインが残っているので、それを飲ませてやるとしよう。
先日の赤ワインと同じ銘柄の白……シャルドネと貴腐ワインに用いられるセミヨンを使った辛口の白。
少し冷えている方が飲みやすいのだが……氷水でボトルごと冷やす方がいいだろう。
使っていない折りたたみバケツを広げ、魔法で作った氷水で満たし、ボトルを入れてテーブルの上に置いた。
〈何をしている?〉
〈白の
〈魔法を使えば簡単なのにか?〉
〈あっ……〉
イメージすることで自分で作り出した水を凍らせることができるんだから、ボトルの中に入ったワインも冷やすことができるということか。
考えもしなかった……。
〈しょーへいはチキュウの常識に囚われすぎだ〉
〈返す言葉もないよ……〉
料理用に使うワインを冷やしておく……なんてことは基本的にしないので、もう一本ある白ワインのボトルを手にとってみる。
いざ手にとって、ボトルを眺めて考えてみる。
この中のワインを凍らせるでもなく、冷やす……これが難しい。
氷は表面が凍ってくるところからイメージできるし、いまでは氷そのものをイメージすることができる。
だが、ただ単に温度が下がるというイメージをするのは難しい。
〈しょーへい、どうした? 難しい顔をしているぞ〉
〈いや、魔法で瓶の中を冷やそうと思ったんだが、なかなか上手く頭の中で思い描くことができないんだ〉
『どれ、貸してみろ』
口にスプーンを入れたまま、ミミルは手を出してくる。
行儀の悪いことだが、ミミルがそういう仕草をすると可愛く見えてしまうから不思議だ。
俺もボトルを持ち直し、ミミルが差し出した手の上にボトルを載せる。
どうやら手本を見せてようとしてくれているようだ。
ミミルはジッとボトルを見つめているが、魔力視を通して見ると、手から魔力がボトルへと伝わっているのが見てわかる。
〈これは駄目だ……〉
ミミルが少し悔しそうに唇を噛み、ボトルを突き返してきた。
いったいどうしたというのだろう……。
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