第199話
ハイエナに似た犬型の魔物を八頭連続で倒したことで、魔法に少し自信がついた。俺の魔法はナーマンやネスホルンのような大きな魔物が相手だと豆鉄砲のようなものだが、こうして攻撃の効果が出る相手がいたのはとても嬉しい。
ミミルの解説によると、魔物の名前はヒエルンという名前らしい。
噛まれると牙から毒を注入してくるそうだ。
そんな大切なことはもっと早めに言って欲しいんだが、なんとかならないだろうか。
ハイエナには死肉を食らうサバンナの掃除屋というイメージがあるし、噛まれると雑菌やウィルスが体内に入ってくるような気がすることを考えると似たようなものなのかも知れない。
それに、ナーマンやネスホルンのような巨体で堅牢な身体を持つ魔物と共にこの領域にいるのだから、それくらいの脅威度がなければバランスも悪い気がする。
まあ、ゲームではないのでそのようなバランスを考慮してダンジョンの第二層が作られました――なんてことはないと思うので、俺の考えすぎというやつだろう。
ナーマン、ネスホルン、マンケス……接敵する魔物を淡々と倒し続け、前へと進んでいく。
続いて遠くから走ってきたのは二足歩行の鳥……ダチョウだろうと思って眺めていると、十秒足らずで目の前までやってきた。ダチョウは時速七十キロで走るというが、この鳥はそれ以上だ。
ジャンプして嘴を突き刺すように向けてくるが、直線的な攻撃方法だし、元々距離があったので心の準備もできている。
軽くサイドステップで躱すと、時速百キロに近い速度で巨大な鳥が横を通り過ぎていく。
ダンジョン内とはいえ、慣性は働くのですぐには止まれない。
大ダチョウ
もちろん背後に回って追いかけてはいるが、ナーマンやネスホルンとは違ってスピードがある分、十メートルそこそこの距離しか縮められない。
だが、牽制するには丁度いい距離だ。脚を狙えば動きを抑え込むこともできるかも知れない。
「――ロックキャノン」
水魔法のときはウォーターボールと名付けている直径二十センチの水塊――その土魔法版だ。重さは同じ四キロ強で、直径約十五センチ程度の大きな石が砲弾のように飛ぶ。
大ダチョウ
写真などでダチョウの膝に見える部分は、人間の骨格でいえば足首に該当する。つま先立ちした状態で踵に背後から四キロの石の塊が時速二百キロを超える速度で当たればどうなるか……。
大ダチョウ
二十メートル近く離れているというのに、鈍器で殴りつけたような音が
次に鳴り響くのは大ダチョウ
バランスを崩した大ダチョウ
こうなると大ダチョウ
〈やはりしょーへいは容赦ないな……〉
〈いや、安全に倒すにはこうするのが一番だろう?〉
〈一気に、痛みも感じることなく倒してやるのが慈悲というものだ〉
〈俺には無理だなあ……〉
俺にはミミルのような大火力の魔法がないので仕方がない。
マイクロウェーブは一瞬で脳を破壊することができるが、高速で走る魔物の頭に狙いを固定するのは難しい。
それ以外の魔法だと、魔力の刃を投げつけるエアブレードやエアエッジの攻撃力が高い。しかし、いまは水、氷、土の魔法の熟練度を上げることを優先しているから
となると、魔物を動けなくして安全性を確保しつつ、時間を掛けて戦うしか方法がないというわけだ。
何か工夫してできるのなら、すぐにでも教えて欲しいくらいだ。
「――エアブレード」
上手く動けずに藻掻き、喚くように鳴き声をあげる大ダチョウ
フワフワな羽毛に覆われた身体には水や氷、土の魔法ではダメージを与えられないからだ。恐らく短剣を使っても魔力強化なしでは刃が立たないことだろう。
大ダチョウ
そこに残ったのは大ダチョウ
それを見てミミルが残念そうに眉尻を下げる。
〈肉はないか……〉
〈残念だったな……そういえば、今日はどの魔物からも肉が出ないな〉
最初にミミルが暴れたのも原因だとは思うが、俺もそれなりに魔物を倒している。
いつものペースなら二個、三個くらいはドロップしてもいいはずだ。
〈この領域は皮や角、爪などの素材を落とす魔物ばかりだ。いま倒したストゥールという魔物以外は肉が出ない〉
〈さっきの大きな鳥がストゥールかい?〉
〈そのとおりだ〉
大ダチョウ
見た目はダチョウなので淡白だが美味い肉が出ると思うが、ドロップしないものは仕方がない。次の接触に期待するとしよう。
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