第190話
ミミルに新しい丸太を花畑に立ててもらい、その後も魔法の練習は続いた。
魔法のイメージを固定化し、名前をつければ魔法名でイメージを呼び出すことができるので、名前をつけるところまで済ませている。
直径二十センチ級の水球はウォーターボム、十センチ級の水球をウォーターボール。そして、三センチ級のものを作り、ウォーターバレットと名付けた。
ウォーターバレットを作ったのは、水球の大きさが小さい方が飛ばすために魔力を込める時間が短く、一秒間に五発程度の連射ができるからだ。
飛ばすというプロセスは同じで、応用として氷塊、石礫でも丸太に向けて飛ばす訓練をした。それぞれ、アイスバレット、ストーンバレットと名付けた。
流石に石礫は水よりも重いので、同じ大きさだと込める魔力の量が増える。だから、直径十センチの水球と同じくらいの重さの石――直径四センチ程度に抑えている。
角張った小石を作り出し、
石のことは詳しくないが、魔力で生成されるためか、見たこともない感じの石だ。いろんな成分が混ざり合っていて、粒子が非常に細かい。
砂岩に近いのかも知れないが、俺の知っている砂岩とは違って黒っぽい。
もう一つ石を作りだし、二つの石を叩きつけて割ってみる。
魔力を注いで育てるように大きくするせいか、中心から層を成している。
堆積岩である砂岩は平行に層が積み重なるので、やはり砂岩とは異なる石なんだろう。
例えば御影石のような花崗岩をイメージしたら、花崗岩ができたりするのだろうか。いや、特定の性質の石と魔法で作り出すことができるなら、自然金やダイアモンドのような宝石だって作れてしまう。だが、そんなことが本当に可能なのだろうか?
手中の石を眺めていると、割れた方の石の縁からキラキラと輝きながら空気中へと霧散していくのが見える。
魔力で作った石は、暫くすると魔素へと還元される……ということだ。
少しだけ自然金への期待感があったのだが、世の中そんなに都合よくできていないってことだろう。
大きく溜息を吐くと、約二〇メートル離れた場所に立つ丸太に向けて半身を向けると、腕を
すでに丸太は石礫が何度も直撃して削れてしまっていて、あと数発も当たれば倒れるだろう。
「――ストーンバレット」
水平よりも僅か上方に打ち出された直径四センチの石礫が弾丸のような速度で撃ち出され、二〇メートル先の丸太に直撃する。
硬い石が乾燥していない丸太に当たった重く低い音が遅れてやって来た。
〈これでいいだろう。――エスピル〉
隣で見ていたミミルから合格を告げる言葉が聞こえると、視界の端に一メートル近くある氷の棒が現れ、的の丸太に向かって飛んでいく。
「――氷の矢?」
一瞬で飛び去ってしまった以上、よくわからない。
飛び出した氷の棒は、瞬く間に
その結果を見たミミルはまた俺を見上げ、ドヤ顔を見せる。
まだ幼い少女のような顔に、自身に満ちた表情がアンバランスだが、虚勢を張っているような雰囲気が漂っていて、逆に可愛らしい。
〈明日は魔法だけで魔物を倒せ。しょーへいの魔法で倒せる相手しかおらんから安心しろ〉
〈ん、どうしてだ?〉
〈熟練度を上げて氷矢、氷槍――より強い魔法を身につけるためだ〉
重く響くような音が聞こえ目を向けると残っていた丸太が根元を残して消えている。
すごい威力だ……これがミミルの言う氷矢というものなら、今後のためにも身につけたい。
〈今日はここまでだ。そろそろ寝るぞ〉
視線を落とすとこちらを見上げるミミルがいる。その大きな目に涙を浮かべているところを見ると、
何度見ても自分より年上に見えない外見と仕草にまた庇護欲が掻き立てられる。
〈ああ、寝るか〉
〈うむ〉
引かれた手をそのままに、二人でテントへ戻った。
簡易ベッドを敷くと、ミミルはそのままベッドへと寝転がる。どうやら寝袋までは必要ないらしい。
簡易ベッドがあれば地面から伝わる冷気もないが、ミミルの着ている服にはいろいろと付与がされているらしい。ダンジョンの中でもよほど寒冷な場所でなければ寝袋は必要ないのだろう。実際に俺自身もこの第二層の気候なら、いま着ているミミル特製の装備で充分だ。
横になってもすぐには眠れず、考えごとを始める。
ここは魔物の領域の間に挟まれた安全地帯のような場所とはいえ、ラウンのような魔物が現れた。
地上に出れば碁盤の目のように整備された街並みがある。
俺たちがいまいる場所は道路みたいなもので、ラウンのような特殊な魔物の通り道になっているとしたら……。
小さく寝息を立てるミミルの顔を覗き込む。
この安心しきった寝顔を見ていると、いま考えていたことは余計な心配なのだというのがよくわかる。
そのまま眠りに就いた俺は、翌朝、目が覚めるまではそう信じていた……。
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