第63話
丸太はミミルが風の魔法らしきもので一閃。
椅子代わりにちょうどいい高さに切り揃えられた。余った分はまた空間収納に仕舞ったようだ。
「あ、ありがとう」
『き、しない』
ミミルからの返事は素っ気ないものだ。俺が「どういたしまして」と返しているのも同じように翻訳されているのだろうか?
まぁ、考えても仕方がない。
そのまま丸太の椅子を立てると、二個並べてその一つに座る。
ミミルも俺がそこに座るのを見て、余った丸太椅子に小さなお尻をのせた。
改めてこうして二人きりになると、何を話せばいいのかもわからない。
恐らく、ミミルはもっと知りたいことがあるのだろうが、俺のもっている知識などたかが知れている。ならば、この第二層入口の周辺でもみて、話のネタになるものを探してみるのも良さそうだ。
「ちょっと外を見てきてもいいか?」
ミミルが頷くのを横目に、階段を上がる。
外から聞こえるのは一面の草原を想起させる、葉擦れの音。
バッタやコオロギ類の魔物はいないようだ。
階段を見上げると、その向こうには満天の星空を額縁で切り取ったかのような光景があった。
ダンジョンの中はあくまでもどこかの宇宙に存在する世界の模倣品。だが、とても良くできている。
思わず
同じように空を見上げている。
『チキュウ、ほし、ない』
確かに殆ど見ることができないが、無いわけではない。
「月が明るいのと、街が明るいからな……星がないわけじゃないよ」
『ん、わかる』
ミミルがリズムよく階段を上がり、最上段に到達するとこちらに振り返った。
この第二層の世界の月明りがその白い肌と銀色の髪にキラキラと反射する。
思わずその光景に息を飲んだ。
こういう光景をなんと呼べば良いのだろう。
神々しい……だろうか。
じっとミミルを見つめると、ミミルは視線を感じたのか頭を傾げる。階段のある穴という額縁に余白を残した一枚の絵画のようだ。
『どうした?』
「な、なんでもない」
平静を装って返事をするが、少し噛んでしまった。
格好悪いな。
階段を上がって第二層の草原に出ると、そこはまた一面を草が覆う世界。ただ、第一層とは違って森も見えるし、遠くに山脈が走っているのも見える。第一層の入口部屋とは違い、高台になっているので見渡すにもちょうどいい。
夜色の深い青色の空とは違う、漆黒の世界がそこにある。
「夜は魔物が活発化するとか……そんなことあるのか?」
ミミルはおとがいに指を当ててしばらく考える。このポーズも久しぶりだ。
そして指を外すと、俺を見上げる。
『そうげん、ふつう。もり、かっぱつ』
「そうか……じゃ、試してみるかな」
『なに、ためす?』
「暗視――赤外線を見られるか試そうと思ったんだよ」
早速、視界に入る赤外線の周波数を、可視光線帯に変換するように念じてみる。
視界の暗さは殆ど変わらないが、二〇〇メートルは離れたところにぼんやりと光っているものが見える。だが離れすぎていて見えるサイズがとても小さく、その魔物が何なのかまではわからない。地面の草よりは頭が上にでているので、それなりに大きな魔物であることは間違いないだろう。
形まで認識しようとするなら、もっと近づかなければいけない。
ミミルは不思議そうにオレの顔を見上げている。何をしているのか理解できていないのかもな。
「この方向に、二〇〇メートル。ぼんやりと一〇匹いる」
『みえる?』
「ああ、四足タイプの魔物だな」
『みえる、なぜ?』
予想通りの質問だ。
だが、赤外線が電磁波の一つであることは既に教えてある。
「体温があって、身体から熱を出していれば、電磁波のひとつ――赤外線を放射している。それを加護の力で可視光線に変換しているんだ。
太陽の光を浴びてると暖かくなるだろう?
あれも、赤外線の力なんだ」
『かごない、できる、ない……』
ミミルの声に、元気がなくなった。
加護がないとできない――自分も
だが、赤外線を使う方法だといろいろと制限もあることも教えておけば、特に必要性を感じなくなるだろう。
「赤外線は暗いところでも見えるんだが、ソウゲンアリのような体温を調節できない魔物は熱を発しないから見えない。
だから、赤外線暗視ができたからといって、安全というわけじゃない」
『――ん、りかい』
説明を聞いて、あまり覚えるメリットがないとミミルも判断したのだろう。
視界の範囲内しか見えないし、虫や魚、両生類に爬虫類はまず見えない。
恒温魔物――とでもいえばいいだろうか。自分で体温調節ができる魔物を離れたところで確認し、レーザーサイトとマイクロウェーブで倒す。そんな運用が必要になる場合を除けばあまり使用頻度は高くないだろう。
あと使えるかも知れないのは、地下洞窟などの暗い場所での暗視だろうか……だが、曲がっていてもその先がわかるという意味では音波探知の方が優れている。
まあ、今回はあくまでもお試しだ。
こんな使い方もできるってことだけ確認すればそれでよしとしよう――。
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