第40話
一〇時間もダンジョンに潜っていれば腹が減る。
俺はカップ麺を食べながら、ミミルに再度原子と分子の話をした。
もちろん、お湯を注ぐだけで食べられるカップ麺を見てミミルは大騒ぎしたし、その味にも大騒ぎをしたのでたいへんだ。
さて、ネットで説明されている原子、分子の動画をスマホで見せながらの説明である。
ミミルとのコミュニケーションに用いている念話は、俺との間だけにつながっているものだ。
ネット動画の説明は、彼女の世界の言葉に変換されない。
仕方がないので、要所要所で俺が講師の後追いをする形で説明した。
非常に簡単な説明なので理解は得られたと思うのだが、途中ででてきた酸素や水素、二酸化炭素の言葉は動画を一旦停止して、補足説明する。
動画には理解度テストのようなものがついていたので、理解度を確認するのに非常に役にたった。
その後は電子レンジについての説明だ。
厨房に行って見せると、俺が知っている程度には理解したようだ。そこから先は日本語を覚えてもらって、学んでもらうしかない。
◇◆◇
「なぁ、ダンジョンの中で俺が死んだらどうなる?」
長い説明会を終えたあと、俺はミミルに尋ねた。
ミミルは顔色一つ変えること無く即答する。
『あなた、しなない。わたし、まもる』
うん、どこかで聞いたようなセリフだな。
質問を変えよう。
「あーそうじゃなくて、人間が死んだらどうなる?」
『おそい、まそ、なる。しぬ、しゅうのう』
遅いということは、ゆっくりと魔素になるということなのだろう。で、空間収納に入れてしまうと……。
ダンジョンの外からきたものは、すぐには霧散しないということなんだな。
無機物は……服など着て入っているから、そこは問題ないんだろう。
持ち込むという意味では、何でも持ち込むことができるのだろうか?
今日は三〇キロ以上歩いていたと思うが、四輪バギーでも持ち込んでしまえば楽になる。
「たとえば、こちらのジドウシャを持ち込むことはできるのか?」
『できる。しゅうのう、だす』
確かにこちらで収納してしまって、ダンジョン内で出せば済むことだろうな。
ただ、燃料とかいろいろ問題があるよな。
「乗り物を使うと、排気ガスでダンジョン内の空気が汚染されるから良くないよな?」
『だんじょん、ぶんかい。だいじょうぶ……たぶん』
ミミルは排ガス問題も大丈夫だと言うが、やはり少し不安だよな。
それに、効率を優先するために四輪バギーなどを導入できるといいが、スライムやオカクラゲを踏み潰したときに、酸で車体が溶けてしまうとか考えたらいただけない。
やっぱり諦めたほうが良さそうだ。
『じどうしゃ、おすすめ、ない』
ミミルもあまり乗り気ではないようだ。
◇◆◇
ミミルへの原子、分子や電磁波についての説明が終わったところで、時刻は既に午前二時になっていた。
二人で歯磨きを終えて、就寝するべくまた部屋に戻ってくる。
これまで俺が説明したことだけでは不十分かも知れないので、図鑑を見せることにした。
ソファの上に寝転がると、隣にミミルを呼んで図鑑を出してもらう。
「カリスガエ!!」
開いた瞬間に出てきた言葉がこれである。
もちろん、本屋に立ち寄ったところで様々な質問が飛んできたのはもちろんだし、ダンジョン内部でも見ているのはずなのだが、フルカラーの写真がたくさん並ぶのを見ると興奮するようだ。
『すごい……』
いままでのミミルの話からすると、印刷技術も現代日本には全然遅れているはずと思っていたが、そのとおりだった。
この図鑑――自然、人体、科学技術や宇宙、地球などの幅広い分野が一冊にまとめられていて、とてもわかりやすい。
ミミルは目をキラキラさせて図鑑に描かれている様々な絵を見つめている。
「なに?」
「これが地球。俺たちがいるのは、ここの湖の近くだな」
最初に見せるのは今日、一度説明した地球のページだ。
漆黒の宇宙に浮かぶ地球の姿がとても美しい写真が一枚。そのまわりにいろいろと記載されている。
「なに?」
「こっちが海、これは大陸。今日、話したとおり陸地が三割、海が七割になってる」
『え、そうぞう?』
「いや、宇宙に出て写真を撮ったんだ」
俺は科学技術の分類を開き、ロケットのページを開いてみせる。
「これで宇宙に行く。カメラは……」
スマホのカメラを開き、ミミルに向けてシャッターを切って見せる。
「これだな」
とても驚いた顔をした、でもとても美しく可愛らしい少女がそこに写っているのを確認して、見せてやる。
「ノネサリ!!」
ミミルはまた驚いて異世界語を叫び、俺のスマホを取り上げた。
不思議そうにスマホを捏ねくり回しているが、デンキやエスカレーターのことは話したものの、カメラやテレビのことも説明していないので仕方がない。
このまま図鑑の力を借りて説明することにしよう――。
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