ミミル視点 第26話(下)

 動く階段の魔道具に乗って、階下へと降りた。

 坂道や階段を上がるのは非常に負担がかかるのはわかる。私やフレイヤなら身体強化ができるので坂道を上るのは簡単だが、下り坂にまでこの魔道具が必要な理由はなんだろう。


「下りまでこの魔道具を使う理由はあるのか?」

『くだり、ひざ、ふたん。これ、ふたん、ない』


 なるほど。確かに膝に負担がかかるなら、下り坂にもある方が良いのであろうな。


 一階にまで下りると、店を出て街に戻る。

 私のような銀色の髪を持つ女が珍しいのか、この世界の女達が私をジロジロとみている気がする。いったいどうしたと言うのだろう。


「しょーへい、何か周囲の視線が熱いのだが、みられておらんか?」

『ミミル、かわいい。みんな、きになる』


 ――なっ、なんだと!?


 わ、わたしが可愛い?


 まっ、まあなんだ――王国で一番の美人と言われるフレイヤの双子の姉だからな。それなりにだな……じ、自信はあるぞ。

 い、いかん……顔が火照ってきた。顔を上げて歩けない。



    ◇◆◇



 書店から出てしばらく歩くと、また違う建物の前にまでやってきた。


『みせ、なか、もの。いえ、かえる、せつめい。いい?』


 わかったわかった。今更説明するものが増えたところで変わらんだろう――。


 不満は残るが頷いておく。


 せっかく『なに』と『あれ』、『これ』を覚えたというのに、さっきから「家に帰ってから説明する」としか返事がないのだから当然だ。これなら都度尋ねないようにした方が気が楽というものだ。


 おや、家の中にあった丸い物体――掃除の魔道具があるぞ。

 これも普及しているものなのだな。何やら角が丸い三角形をしている魔道具もある。よく台の上から落ちることなく器用に動くものだ。こんなに器用なのに、なぜ私をあんなに小突いたのだろう――解せぬ。


 だが、見ていてわかったことがあるぞ。

 あの断末魔のような音は、掃除が終わった時に発するようだ。壊したことがバレたらどうしようかとドキドキしていたのだが、これで安心して眠ることができる。


 そして、こちらにあるのは杖か?

 いや、他の客が試しているが、これも掃除の魔道具なのだな!?

 どんどんゴミを吸い込んでいるのがわかる。これなら、私にも作れるかも知れんな。

 今まで掃除の魔道具といえば自立型の箒――ゴミを掃いて外に捨てるというものだったが、一度中に吸い込んで捨てるようにするとは、この世界の人間の知恵はなかなかのものだ。地面を這って動く魔道具は少し難しいが、こちらならすぐに作れそうだ。

 今度試してみよう。


 それでこちらのものは……衣類のシワを伸ばす魔道具か!?

 よくぞこんなものまで考えたものだ。

 表面を熱し、それで衣類に押し当てるようになっているのだな。

 エルムヘイムだと水が硬いので日干しするとゴワゴワのガチガチになるし、虫食いが増えるのだが、これがあればそんな悩みから解放される。

 これも火と水の魔道具を使って作れそうだ――試作してみるとしよう。


 するとまた動く階段に乗って、違う階へ連れてこられたぞ。


 ――なんとっ!


 大きな四角い板の中に人がいるではないか。

 し、しかも同じ顔の人が何人も……板の大きさに応じて小さくなった者までおるぞ!

 ま、まさか……この場所にある板の数だけ同じ顔で――まさか、人を複製することができるのか?


 こ、これはしょーへいに確認だ。


「双子でも珍しいというのに、この者は何人きょうだいなのだ?」

『かえる、せつめい。いま、しんぼう』


 ――むむむぅ!


 また家に帰るまで待てというのか!

 何もかも家に帰ってからでは、私が頑張って『なに』や『あれ』、『これ』を覚えたというのに――


 い・み・が・な・いっ!


 ふーっ……久々に地団駄を踏んでしまった。

 一二〇年ぶりくらいじゃないか?


 いや、三回ほど地面を踏みつけただけだ。こんなのは地団駄を踏んだとは言わない。


 いい歳してこんなことをするなど、自分で自分が恥ずかしいわ。

 ちょっと興奮しすぎたのか心持ち、顔が赤くなっている気がする――。



    ◇◆◇



 しょーへいが何やら注文したあと、店を出た。


 日差しがとてもきつい。

 幼い頃に覚えた魔法で体表と瞳を保護しているので問題はないが、熱いのは勘弁して欲しい。


『ひやけ、だいじょうぶ?』

「ああ、問題ない」


 私が日焼けすることを心配してくれているようだな。

 魔法で保護していることは教えなくてもいいだろう……いずれ気がつくはずだ。


 そのまま連れられてまた店に入った。

 陳列されているものは化粧品の類だと思うのだが、何のために使うものだろう。


『これ、なに?』

『はだ、すいぶん、ほきゅう。きょうみ、ある?』

「もちろんだ」


 私は大人の女だからな。化粧には当然興味がある。

 ダンジョンの中にばかりいるので化粧することは少ないが、王室に呼ばれたときなどは化粧をする。ただ、道具はエルムヘイムに置いてきてしまったが――。


 どうやらしょーへいは調べて必要なものを買ってくれたようだ。

 しかし、私には使い方がわからんぞ。

 頼むから私に教えるのを忘れないでくれよ――。

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