79 もしかして、……"同種"?

 伏見稲荷神社ふしみいなりじんじゃを後にした二人はバスで清水寺へ向かった。昨日は行かなかった塔の先へ進み、轟門ごうもんをくぐり拝観料を払って中へ入る。本堂に入り本尊ほんぞんの前で合掌がっしょうした後、外の景色を眺めた。思ったほど高くない清水の舞台で記念写真を撮り、奥へ進む。


 鞍舎堂くらしゃどう阿弥陀堂あみだどうを見て回り、坂の途中で真横から清水寺が望めるスポットがあったので、止まって写真を撮ってみた。

 振り返ってミシェルを探すと、彼女は男性に声をかけられている。撮影を頼まれ少し雑談しているミシェルの姿に呆れ、亘はミシェルを置いて先に進むことにした。


 音羽おとはの滝を通り過ぎて順路を辿り、仁王門におうもんの前でミシェルが追い付くの待ってみた。

 すると、門の前で写真を撮る人に紛れて、昨日見かけた女性がまた案内をしているのを見付ける。今度は中国語で話しているのを見て3か国語話せるのかと感心する。


 ミシェルから電話があり、お互いの場所を確認しミシェルが来るのをもう少し待ってみる。

 暇な時間、門を見上げているとあの女性が話しかけてきた。


「どうしたの?ぼく、親とはぐれちゃった?」


 亘は視線を向けて間近で彼女を観察する。綺麗な容姿に少し見惚みとれた。


「ああ、うん。母親とはぐれちゃって」


「そうなの、一緒に探そうか?」


「ううん、大丈夫。連絡とってここで待ち合わせてるから」


「そう、良かった」


 そう言って微笑む顔は可愛らしく、どこかキャシーに似ている気がした。彼女と違って黒髪でボブヘアーだが。


「お姉さん、観光ガイドのひと?」


「え?」


「昨日もここで案内してなかった?」


「ああ、見てたの?いいえ、ガイドとかじゃないわ。ナンパしてたのよ」


 "ナンパ"という返答に亘は驚く。


「えっ、外国人相手に?」


「ええ、観光客のほうが都合がいいし。私、言葉に不自由しないから」


 あっけらかんと話しているが、女性なのにずいぶんと軽忽けいこつな行動をとっている。客引きには見えないし、単に男性を引っ掻けるのが好きなだけなのだろうか。

 亘はその女性の容姿を今一度確かめた。整えられた愛らしい顔立ちに明るい表情。言葉に壁がなく、異性を引っ掻けようと必死である。


「お姉さんって、その、間違ってたらごめんね。もしかして、……"同種"?」


 彼女の顔が引きつった。亘はやはりと思った。


「な、なんで、わかったの?」


「なんとなく。俺、同種と一緒に暮らしてるから。もしかして体力、まずいの?もしそうなら、血を上げようか?」


 亘の申し出に彼女は蒼白そうはくした顔で後ろに下がっていった。彼女の異様な雰囲気に亘も不安になった。


「お姉さん?」


「わ~た~る~」


 振り返るとミシェルがこっちに近づいていた。


「あ、お母さんが来たからもう行くね。心配してくれてありがとう。お姉さん」


 返答のない彼女から離れてミシェルと合流する。少し注意されて階段を下りようとした時には、彼女の姿はもうなかった。





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