73 すごく綺麗だよ

 2週間後にケリーの家の前に行くと、レーナが車で迎えに来ていた。白いセダンに乗り込んで隣町にあるショッピングモールに向かう。基本的にはガブリエラの洋服の買い出しだったが、婦人服以外にも雑貨や本屋にも立ち寄った。


 キャシー達が洋服を物色している間、ケリーはディスプレイされた服を眺めているとレーナに話し掛けられる。


「何か買いたいものがあるのか?」


「……特にない」


「そうか?君も服を新調すればいい。気分が変わるぞ」


 遠回しに自分のダサい格好を詰られているのかと思ったが、なんでも悲観するのは良くないと思った。


「どんな服装すればいいのか、わからない…。自分に何が似合うかもわからない」


「似合うどうかじゃなくて、したい服装をすればいいと思うぞ」


「……わからない」


 ここまで物欲も我欲も少ない子は珍しいとレーナは困ってしまう。ミシェルがケリーに手を焼いている理由がちょっとはわかった気がする。

 沈黙を破るように亘がレーナを呼びに来た。キャシー達が下着選びを始めたので、バトンタッチしたいらしかった。


「そうだ、亘。ケリーの服選びに付き合ってやってくれ。ではな」


 去り際にレーナにそんな事を頼まれて、二人は顔を見合わせた。レーナの老婆心のせいで服を買わざるを得なくなった。


「どんなのが欲しいんです?」


「……亘はどんなのがいいと思う?」


 選択を丸投げされて戸惑う亘。少し店内を見回してミントグリーンのワンピースを手に取った。


「ケリーさんには緑色がいいと思うよ。瞳の色と同じだし」


 亘の持っているワンピースを受け取りケリーは試着してみることにした。


 試着室の前で待っていると、爽やかな色のワンピースを身に纏ったケリーが出てくる。

 ケリーは豊満な体型ではないが、普段隠している長い足が露になり、スラッとした印象を与えてくる。何よりズボンからスカートに変わるだけでも、女性らしさが出てきて、別人に見えた。


「変かな?」


「そんなことない。すごく綺麗だよ」


 誉め言葉に照れたのか顔を伏せるケリー。お互い黙っていると、店員に話しかけられ靴やら上着やら勧められて、買うことになった。








 買いたいものを揃えたキャシー達は飲食店でお茶を飲むことにした。モール内を3周ぐらいは歩かされたので、疲れきった亘は女性陣に倣ってケーキを頼んでしまった。近況話や仕事の話が飛び交う中、ミシェルの記憶喪失の話題になっていった。

 

「本当にびっくりだよね~!」


「記憶が戻らなかったらどうなってたんだろうね」


「決裂は避けられなかっただろな。アメリカに戻ろうとしたと思う」


「本当に出ていこうとした時は焦りましたよ」


「でも、わたるんがミシェルを引き留めたんでしょ?後ろから抱き付いてキスしたって聞いたわ!」


「ぶっ!」


 亘は飲んでたアイスティーを吹き出した。ミシェルが歪曲して吹聴したらしかった。


「話盛ってます!抱き付いたのは事実ですけど、キスはしてません!」


「そうなの?」


「けど、キスもしたんだろう?そう聞いているが…」


「えっ!いや…それは、しましたけど…。生気与えるのに、ミシェルがキスじゃなきゃ嫌だっていうから…」


 耳まで真っ赤にして縮こまる亘。これ以上質問攻めにされたくなくて話をぶった切ろうとしたら、先にガブリエラに割って入られた。


「亘って案外押せば折れるよね。私とキスした時も特に抵抗しなかったし…」


「びっくりして反応できなかっただけだよ」


「えー!ガブリンともキスしたことあるの~!わたるんってば結構手広いね」


「違います!変な事言わないでください!」


 キャシー達にからかわれて顔を真っ赤にする亘。彼が二人の女性とキスしたという事実を知っても、ケリーはただ、話を聞いているだけだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る