62 シヴァさんはどっちなんだ?

 一先ず、キャシーの住む家に付いていくガブリエラ。シヴァも帰り二人だけになった。店内で亘はずっと疑問に思っていたことをミシェルにぶつける。


「なぁ、ミシェル。ひとつ聞いていいか?ガブリエラが言ってた、"異種"って何なんだ?」


 ミシェルは眉毛を上げて少し困った顔をした。カウンターにれて腕を組んで答える。


「"異種"っていうのは、"異国の同種"を揶揄やゆして言った言葉だろうね。実際そんな区分は存在しない。けど、昔から国外から来た同種をそう呼んで差別していたらしいよ」


「外国から来た同種を何で差別するんだ?」


「どんな社会でも自分達と違うものを否定したり、弾圧したりするものよ。国や民族・種族は関係なしにね」


「あれ、でもガブリエラって栃木で生まれたんじゃなかった?なら、日本生まれなんじゃないのか?」


 ミシェルは少し黙った。異種の矛盾点を亘が的確に質問してきたからだ。


「私のところにいる同種の中で、実際に海外から来た同種は私を含めて、白澤とレーナだけなの。

後のアンドレ・キャシー・ケリー、居なくなってしまったサミュエルも日本で存在した。

ただ、元になった人間が外国人だから"異種"として弾かれたの。変な話よね。みんな海外で暮らした経験なんてないのに」


 要するに"異種"とは、この国の同種が容姿の異なる同種を線引きするための方便ほうべんであり、異物を弾くことで自分達の範囲テリトリーを守っているのだった。異種のことを納得したところで、亘はあることに気づいた。


「シヴァさんはどっちなんだ?」


 ミシェルは敢えてシヴァのことを取り上げなかった。彼のことはまた別の話だからだ。


「ねぇ、亘。シヴァの容姿ってさ、ほとんど日本人の顔付きじゃない?」


「そういえばそうだな。てことはシヴァさんは普通の同種なのか?」


「そーね。でも、瞳の色が赤色な事と、名前が日本には馴染みのないヒンドゥー教の神の名だったことから、彼も"異種"だと判断されたの。


シヴァのように生まれも元になった人間もその国のものなのに、違った特徴を持って存在してくる同種が時々いるらしいわ。


そういう同種を今度は"亜種"って言うの」


亜種あしゅ…」


「存在したばかりのシヴァはかなり大変な思いをしたらしいわ。周りの同種からハブられた上に、せっかく提供者や恋人を作っても他の同種に奪われることが常だったそうよ」


 ミシェルの言った通り、どんな種族や社会にも差別や稚拙ちせつな嫌がらせというのは存在する。冷遇され続けるシヴァを見かねた伊邪那美いざなみが、彼を引き抜き自分の元に置いたのだった。


「全く、異種だの亜種だの、勝手な呼び方だよね。同種は"同じ存在"だから"同種"っていうのにね」


「そうなのか?」


「英語じゃ"The Same "っていったりするし、明確な根拠はないけど、同種の由来は同種同士が会ったときに"同じものか?"って訪ねるかららしいよ」


「ふーん。まぁ、人間の俺からしたら、同種と異種を区分する理由がよくわからないけどな」


亘のざっくりとした要約にミシェルはちょっと笑ってしまった。確かに多少の差異で人を選別するのは下らないことなのだろう。






 その週の水曜日。

 学校のホームルームで転校生が紹介された。5月初旬に編入してきた生徒に皆ざわついたが、彼女の容姿を見て更に騒然とした。

 ストレートのロングヘアーにグリーンアイズ。小さく整えられた顔に華奢きゃしゃな体。金髪の美少女にクラス中彼女に見蕩みとれていたが、亘だけは開いた口が塞がらなかった。


「峰岸ガブリエラです。よろしく」


 短い挨拶を済まして指定された席に座る。ホームルームが終わってもクラス内はざわざわしていた。ブロンドの美小女に気後れし、誰も話しかけられずにいた。すると、ガブリエラが立ち上がり、なんと亘のほうに近付いてきた。


「また会えたね、亘」


「えっ!ああ、うん」


 室内は静まり返った。自分達の会話に聞き耳を立てているのを痛いぐらいに感じ、堪らずガブリエラを連れて教室の外に出た。渡り廊下の隅まで行き亘は振り返る。


「驚いたよ。同じ学校に来るなんて」


「うん。私の見た目なら仕事をするよりはまずは学生として過ごしたほうが無難かなって。ミシェルに聞いて亘の通ってる学校に編入することにしたの」


 ガブリエラの戸籍を造ったのは、恐らく月曜日にミシェルが店を休んだ日だろう。その時ガブリエラの生い立ちを設定したのなら、あの悪魔は知ってて何も言わなかったのだ。


「同じクラスになるのは予想外だったけど、でも安心した。私のこと知ってる人が近くにいることが」


 亘もガブリエラのことは何も知らないのだが、同種ということを知っている存在が側にいるということは大きな違いなのだろう。ガブリエラは亘の手を取り瞳を覗き込む。


「私、まだわからないことばかりだから、手助けしてくれると嬉しいな」


 そう言って微笑むガブリエラは本当に天使のようだった。可愛らしい笑顔に見蕩みとれているとチャイムが鳴り二人は教室に戻った。

 次の休み時間に友達からガブリエラのことを質問攻めにされ、亘は一日中彼女のことで苦心するのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る