雨の日。


喫茶店のバイトが終わり、店を出ると、

外は土砂降りの雨だった。

全く止む気配のない大粒の雨が、道路を打ち付けている。


僕は手ぶらでは帰れないと感じ、店内にあった傘を拝借して帰ろうと傘をさした時、ふと近くに気配を感じた。


白いワンピースを着た女性が少し離れた場所で雨宿りをしていたのだ。

彼女はただまっすぐ前を見て雨をただ見つめていた。その横顔があまりに儚くて、消えてしまいそうだったことを今でも覚えている。

 

「これ、よかったら」

と僕が傘を差し出すと、

彼女は「悪いわ」と言って、傘を受け取ろうとはしなかった。でも、このままではいけないと思い、僕は「使ってください」と無理に彼女の手に傘を持たせ、走って家に帰った。


髪も洋服もびしょ濡れにはなってしまったけど、ほのかに残った彼女の手の温もりだけが僕の気持ちを暖かくさせていた。


次の日、僕が喫茶店へ行くと、

昨日の傘が店の前にポツンと置いてあった。

マスターに聞けば、女の人など見ていないし、傘なんてさっきはなかったと言う。


もう少しだけ早く店に到着していたら、

会えたのかなぁと思うと、少し悲しかった。


それから、雨になると僕はまた彼女に会えるかもしれないと、店の中から窓の向こう側を見る。


今日も雨が降っている。

シトシト音を立てて。

彼女にまた会えるだろうか。

いや、彼女にまた会いたい。


そう願いながら、僕はテーブルを拭いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る