存在しない駅。
「次は、上岡駅。上岡駅」
車内に聞こえる場内アナウンス。
そのアナウンスに続けて、先程から
「次は、上岡駅。上岡駅。ドア閉まります」
とアナウンスを真似する男がいる。
こんな事を言ったら、いけないのかもしれないが、自閉症を持つ男なのかもしれない赤いリュックを背負い、座席はたくさん空いているのに、座らずにただアナウンスの真似をするのだ。
周りには客は2、3人いたが、皆見ないふりをして携帯を見たり、居眠りしたりしている。別に何か支障をきたしているわけでもないし、興味も関心もないのだ。
終点間際のこの電車に、私は仕事帰りで乗った。今日は久しぶりの残業で疲れた上に、昨日は夜中まで飲み会で朝から寝不足だった。
だから、いくら男がアナウンスの真似事をしても、眠さが勝った。
次に目が覚めたとき、私は寒さで目が覚めた。先程まで車内にいたはずなのに、私はなぜか外のベンチに座っていた。降りた記憶もなく、ただただ寒かった。次の電車に乗って早く帰ろう、そう思っていると、車内が真っ暗な電車が走ってくる。車庫にいく電車なのだろうか。それにしても、真っ暗なんてあまりに不気味だった。
だが、その予感は的中した。
先頭にあの男が車掌の格好をして乗っていたのだ。
「次は、塩土駅。塩土駅」
アナウンスを真似していたあの男だった。
私は驚いて、思わず声を上げた。
そんな駅の名前、聞いたこともなかった。
恐ろしくなって、私はとにかく駅のホームから出ようとして、駅の改札を探すが、全くない。ただただ一直線の線路があるだけで、帰りの線路もないのだ。どうして良いかわからず、私はとにかく走り、先頭を探すが全く見つからず、先が見えない。人もいない。
「誰かいますか?ねぇ、誰か?」
何度か叫び続けると、
「大丈夫ですか?しっかりしてください!」
と声が聞こえた。
ゆっくり目を覚ますと、私は救急車の中だった。
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