第18話 これでいい
先輩がパンサー号を見つけた日、私は自分がずっと勘違いしていたことに気づいた。
そもそも、初めから勘違いしていたことは気づいていたけど、まさかこんなに近くにいるなんて思わなかった。
ここ最近は、そんな人に対して私がずっとやってきたことを思い出しては後悔する日々だ。
私が探していた人が瀬良先輩だと気づいた日、いとも簡単に私は恋に落ちた。
きっと私は瀬良先輩が私を救ってくれた人だって知らなくても、いづれは先輩のことを好きになっていたと思う。
瀬良先輩は私の運命の人だって、そう思いたかった。
そう思いたかったけど、私じゃないんだ。
私は先輩のことを全然知らなかった。
今日、あの変な人に絡まれて先輩が辛そうにしていても、私には何もできなかった。私は先輩に自分が辛い時だけ助けてもらって、先輩が苦しい時には見ていることしかできない。
でも、咲先輩はちがう。
咲先輩が転校してきた日、私はすぐにそれがあの写真に写っている人だと気づいた。
先輩が取られるのが怖くて、先輩がどこか遠くに行ってしまうのが怖くて、咲先輩には随分失礼な態度をとってしまった。
それなのに、咲先輩はずっと優しかった。
私にはそんなことできない。
咲先輩は、先輩と深い何かでつながっているのだと思う。じゃないと先輩も咲先輩もあんな幸せそうな笑顔で写真に写るわけがない。
瀬良先輩のあの笑顔は、私の携帯に入っているどんな顔とも違う。きっと、私では先輩をこんな笑顔にはできない。
そして、咲先輩も瀬良先輩に恋をしている。
言葉にしているところを聞いたわけじゃないけど、そんなの見ていれば誰にでもわかる。瀬良先輩は気づいてないようだけど……。
瀬良先輩の隣にいるべき人は私じゃない。
だけど、何も知らないまま諦めるなんてことはしたくない。せめて先輩に何があったのか、咲先輩との間に何がったのかだけは知っておきたかった。
私は携帯を手に取り、ある人に電話をかけた。いつもとは違う人だ。
『どったのつむぎん! 珍しいね』
「咲先輩……、知りたくなったらいつでも聞いてねって言いましたよね? だから……、瀬良先輩の『恥ずかしい話』私に教えてください」
『そっかそっか、うん、いいよ。でもねつむぎん、この話を聞いたらきっとつむぎんは何もできなくなっちゃうよ? それでもいいの?』
「それでもいいです。もう決めたので」
『わかった』
きっと私はこの話を聞いてしまえば、この気持ちを隠すことになるのだろう。
それでも、私は良かった。
だって初めて他の人に幸せでいて欲しいと願えたのだから。
自分のことしか考えられなかった私が、こんな思いを抱けるなんて思ってもみなかったから。
これでいいんだ。
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