第三幕 料理③


 今日は王都南の森、サウルの森に来ている。

 第三騎士団は定期的に王都周辺の魔物を討伐しているらしく、西のゴーシュの森に引き続き、ここサウルの森に遠征する予定だったらしい。

 本来であれば、そう頻繁に騎士団が討伐しに行く必要はないらしいのだけど、ここ数年、以前の頻度では間に合わない状況らしく、次々と討伐に出かけている状況だそうだ。

 まぁ、【聖女召喚の儀】により【聖女】が召喚されたので、徐々に状況は良くなるだろうと見なされているらしいのだけど。

 頑張れ、愛良ちゃん。

 それで、今回は、この遠征に薬用植物研究所の研究員さん達も同行している。

 魔物の討伐が主目的とはいえ、こうして騎士団と一緒に森に来られることはないらしく、この機会に森の中に生えていて、薬草園にはない様々な薬草の採集を行ってしまおうと皆付いてきたのだ。

 中には、採集だけでなく、薬草の植生調査まで行おうとしたやからもいたようだけど、主目的の邪魔になるため、所長によりあっさりと却下された。

 本来であれば、あしまとい以外の何物でもない研究員さん達が騎士団の討伐に参加するなんてこと自体がとんでもないことで、あくまで騎士団の厚意で実現したことだったからね。

 進んで薬草採取に参加する研究員さん達がいたので、私は研究所でのんびりポーションを作っていようかと思っていたのだけど、一番薬草を使うのが私だということで、所長により、あえなく参加が義務付けられた。


「おーい、あんまり離れるなよ」


 道から少し離れた所にお目当ての薬草を見つけて、採ろうとすると、後ろからジュードに注意された。

 ささっと薬草を摘み、ジュードのところに戻ると、追加でお小言を貰う羽目に。


「西の森より穏やかな森とはいえ、魔物が出ない訳じゃないんだからな。離れるなら一言言ってから離れないと」

「ごめんごめん」


 南の森は西の森より弱い魔物しか出ないらしいのだが、まったく出ないという訳ではない。

 故に気をつけないといけないのは分かっているのだけど、日本にいた頃の感覚が抜けないらしく、お目当ての物を見つけると、つい、ふらふらと行っちゃうのよね。


「ちゃんと見ているから、あまり離れなければ大丈夫だ」


 ふっと笑いながら、二人の後ろから声をかけたのは団長さんだ。

 現在、騎士団と研究員さん達は三班に分かれて行動している。

 その方が効率がいいからなんだけど、私とジュードは団長さんの班に入れてもらっている。

 南の森に出る魔物はそれほど強くないらしく、普段は南の森に団長さんが同行することはないそうだ。

 けれど、今回は私達がいるからか特別に同行している、とは同じ班にいる騎士さんの談。

 お礼とはいえ、何だか申し訳ない気持ちでいっぱいである。


「ありがとうございます。それにしても結構奥まで来た気がするんですけど、魔物出ませんね」


 そう。

 森に入ってから既に二時間は経過していると思うのだけど、一度も魔物に遭遇していないのよね。

 普段からこんなものなんだろうか?

 そう思い、団長さんに質問すると、そうではないらしい。


「いや、いつもなら既に数回は遭遇していてもおかしくないんだが……」

「そうなんですか」

「あぁ。ここまで遭わないのも珍しい」


 そう言うと、団長さんは眉間に皺を寄せて少し考える仕草をし、他の騎士さん達に話しかけた。

 うーん、何かあるのかしら?

 嵐の前の静けさじゃないけど、いきなりサラマンダーみたいな強力な魔物が出てこなければいいんだけどね。

 そんなことを思いながら、道の側に生えている薬草を摘みつつ、他の班との合流地点に向かった。

 今歩いている道の先に少し開けている場所があり、そこで他の班と合流した後、昼食となる予定だ。




い!」


 皆と合流した昼食会場。

 あちらこちらでしいと声が上がっているのを聞くと、手伝ったがあるというもの。

 昼食の準備は騎士団の皆様がやってくれるというお話だったのだけど、この世界の料理事情を憂えていた身としては手伝わない訳にはいかなかった。

 普段使わないようなハーブやらを入れて作ったスープは好評だったようだ。


「薬用植物研究所の食堂は美味いと話を聞いていたが……、もしかしていつも君が作っているのか?」


 スプーンにすくったスープを見つめながら、そうおっしゃるのは団長さん。

 やはり料理に薬草が入れてあるのは珍しかったらしく、作っているときも後ろから、それは何ていう薬草だ、入れるのかとか色々聞かれたのよね。

 その言動は、いつも後ろからのぞき込む、どこかの所長とそっくりだった。

 団長さんと所長は子供の頃からの友人で、仲がいいんだと研究員さんに聞いたことがあるんだけど、仲がいいと言動まで似るのかしら?


「いえ、レシピを提供したくらいで、いつもは料理人の方が作ってますよ」

「いつもこんなに美味い食事が食べられるなんてうらやましい」


 目を細めて美味しそうにスープを食べてもらえるのを見ると、すごくうれしい。

 でも、この集団の中にいるのは、ちょっと緊張する。

 午前中の討伐の結果、騎士さん達と研究員さん達はそれなりに打ち解けたらしく、思い思いに固まって座っている中、私の隣には団長さんが座っている。

 その向こう側には副団長さんが座っていたりと、重役ばかりの固まりに放り込まれている研究員は私一人なのよね。

 ジュード?

 巻き込もうとしたけど、逃げられたわ。

 後で覚えてろ。


「このスープ、色々と薬草を入れられたと伺いましたけど、いつもより体が温まりますね。そういう効果がある薬草があるのですか?」

「えぇ、そうですね。今日のスープには……」


 主に会話してたのは団長さんとだったが、合間合間に他の騎士さんにも声をかけられ、というか、料理に使うハーブについて聞かれることが多く、色々と盛り上がった。

 特に、お酒のさかなに使うハーブなんて話には食い付きが良かったわ。

 ソーセージに入れると美味しいよね。

 そんな感じで、料理談義に花を咲かせ、午後からも討伐、そして夕方には王宮に戻った。

 討伐にはそれなりの人数の人達が出掛けていたため、王宮に戻ってからは第三騎士団の演習場に一度集まることになっていた。

 疲れてはいたけれど、死者も出ずに無事討伐が終わったためか、演習場に集まった研究員さん達はまるで遠足の後のように三々五々に集まり話していた。

 話す内容は、今回手に入れた薬草についてだけでなく、道すがら遭遇した魔物や、討伐時の騎士さん達についても話していた。

 私がいた班の通った道では、午後も変わらず魔物が出ず、一緒にいた騎士さんが

「団長の強さに恐れおののいて、寄ってこないんじゃないんですか」なんて言っていた。

 団長さんはこの騎士団の長をやっているだけあって、団の中でも一、二を争う強さなんだとか。

 もっとも、魔物が寄ってこないというのは冗談で、ここまで遭遇しないことは今までなかったとも言っていたけど。

 実際、他の班では午後も何回か遭遇したらしく、研究員さん達も騎士さん達と一緒になって討伐に参加したみたい。

 研究所にいる研究員さん達は皆、何かしら魔法スキルを持っているらしいからね。

 騎士さん達の後ろから魔法を撃って応援してたんだって。

 魔物討伐なんて王立学園にいたとき以来だと、皆ちょっと楽しそう。


「一応、討伐だと聞いていたから、それなりに覚悟してたんだが、あまりにもあっさり片付いたから拍子抜けしたな」

「あぁ、久しぶりに魔物と戦ったが、その割には調子良かったな」

「お前もか? 俺も学園にいた頃より調子が良かった気がするな」

流石さすがにそれは言い過ぎだろう」


 そんな感じで、皆でわいわいと話していたら、討伐の話だったからか近くにいた騎士さんも加わってきた。


「皆さんもですか?」

「え?」

「いや、私達もいつもより動けてたんで、不思議だなって話してたんですよ」


 騎士さんの話では、最初は皆、自分だけかと思っていたらしいのだけど、他の騎士さん達の動きもいつもより良かったことから、話し合った結果、身体能力が上がっているようだという結論に至ったらしい。


「何が原因だ?」


 独り言のように一人の研究員さんがつぶやくと、皆其々、見解を述べ始めた。

 まぁ、あっさりと一つの原因に思い至った訳だけど……。


「昼食じゃないか?」

「「「それだ!」」」


 いつもと違ったことは何かということを考えたとき、皆、昼食で食べたスープのことが思い浮かんだらしい。

 確かに、スープにハーブを入れるなんて、普段研究所の食堂で慣れている研究員さん達はともかく、騎士さん達には初めての体験だったはずよね。

 では、このハーブが原因なのか?

 こうなると、研究員さん達が途端に生き生きしてくる。

 早速、研究所に戻って調べなければと鼻息を荒くする研究員さん達を解散の合図があるまで何とか押しとどめたけど、研究所に戻ってからは大騒ぎとなった。

 皆、それなりに疲れていたはずなのに。


 それから一週間。

 原因を調べるのに、研究所で色々な条件で料理を作り、食べて調査した。

 それこそ、朝昼晩プラス夜食どころか、一日中食べることに。

 流石に研究所の人間だけでは消化しきれず、討伐で仲良くなった第三騎士団の騎士さん達にも協力をお願いした。

 騎士さん達が、噂の薬用植物研究所の食堂で食事ができると、喜んで協力してくれたから、とても助かったわ。

 結果、料理スキルを持つ者が作った特定の料理を食べると身体能力が向上することが分かった。

 この料理スキルを持っていると、ポーションを作るときと同様に、料理を作るときに作製者の魔力が作用するみたいね。

 そんな料理スキルは食堂の料理人さん達なら大抵持っているスキルらしい。

 もちろん我が研究所の料理人さんもしかり。



 小鳥遊 聖  Lv.55/聖女

  HP:4,867/4,867

  MP:6,067/6,067

  戦闘スキル:

   聖属性魔法:Lv.∞

  生産スキル:

   製薬   :Lv.21

   料理   :Lv.5



 そして、いつの間にか私も持っていた。

 これが理由で、あの討伐のときに皆の身体能力が向上したようね。

 普段から食堂で食べている研究員さん達が今まで気付かなかったのは、体を動かすことが少なかったからかな。

 騎士さん達は体を動かすのがお仕事だからか、すぐに気付けたみたいだし。

 実際は、気付いた理由はそれだけではないと思うけど。

 ポーションを作るときに発揮される五割増しののろいは、ここでも効果を発揮したようで、食堂の料理人さんが作った物よりも、私が作った料理の方が、効果が高かったのよね。

 恐らく、そのせいで効果が顕著に現れて、今回の発覚に至ったんだと思う。

 所長にその話をしたら、ものすごあきれられ、今後はみだりに公の場で料理を作ることを禁止された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る