第二幕 ポーション④


 すぐそばの建物に入ると、中は戦場だった。


「これはひどい……」

「……」


 普段は広間として使われている部屋には、多くの負傷者が寝ており、彼等の間を医師や看護師と思われる人達が走り回っていた。

 部屋には怪我や、サラマンダーの火による火傷やけどによってうめく負傷者達の声があふれ、医師さんの「ポーションはまだか!」という叫び声が響く。

 先程までのんに構えていた頭は冷え、ぼうぜんと立ち尽くしていると、先頭に立っていた所長が手をたたいた。


「持ってきたポーションを配分しろ! お前ら二人はあっち、ジュードとセイは向こうを頼む」

「「「「はい!」」」」


 持ってきたポーションを数本ずつ持ち、あちこちにいる医師さんに配っていく。

 医師さんは大抵重傷者の側におり、ポーションを受け取るとすぐさま患者に与えた。

 全体的にポーションが不足しているためか、普通であれば中級HPポーションでもなければ全快が難しいような重傷者にも下級HPポーションが与えられる。

 医師さんの気持ちとしては与えないよりはマシといったところかな。

 患者が生死の境目にいるならば尚更。

 与えることで生き残れることもあるからね。


「これは!」


 研究員に手渡されたポーションを患者に与えた医師さんは驚いていた。

 魔物の爪に大きく皮膚を切り裂かれ、荒い息をしていた患者にポーションを与えたところ、傷が完全に消え、患者も急になくなった痛みに閉じていた目を開き、恐る恐る体を確認していた。

 いたる所にあった細かい傷なども含め、全ての傷が消え、顔色も真っ青だったのが回復していた。


「下級だったよな?」


 医師さんはげんな顔で、手の中にある空瓶をかざして見ていたけど、全て患者に与えた後であり、ランクの判別は難しいと思う。

 医師さんが与えたのは確かに下級HPポーションだったけど、それはただの下級HPポーションではない。

 私が作った五割増しポーション、つまり性能自体は中級のポーションね。

 医師さんに何かを聞かれる前にその場を離れ、次々とポーションを配り歩く。

 あちらこちらで医師さんや看護師さん達の戸惑う声が聞こえたけど、さくっと無視した。

 今は配る方が先だ。


「上級HPポーションはないかっ?」


 広間の奥の方で、誰かの声が聞こえた。

 声がした方を見ると何人かの医師さんや騎士さんが集まっている場所があった。

 声がしたのはあそこかしら?

 手持ちのポーションに中級HPポーションがあったので、それを持って向かうと、近付くにつれ議論している声が聞こえた。


「これは上級でも難しいだろ。回復魔法が使える者はいないのかっ?」

「回復魔法でも4レベル以上でないと……」

「聖女様はどうした? あの方は4レベルの回復魔法が使えるんだろう?」

「それが、カイル殿下が、このようなむごい場面を聖女様にお見せできないと……」

「何だとっ!」


 カイルって、確か第一王子の名前、あの将来禿げそうな赤髪君よね。

 確かに重傷患者の患部をモザイクなしで見るのは、とてもきつい。

 スプラッターに割と耐性があると自負する私でも直視がきつくて、なるべく見ないようにしながらポーションを配ったのだ。

 あのゆるふわ愛良ちゃんでは、見た瞬間に気を失うかもしれない。

 愛良ちゃんが来られないことを説明する文官らしき人物に食って掛かっている騎士さんは、患者の友人だろうか?

 人垣のせいで患者が見えないため判断は付かないけど、上級HPポーションでも持ち直すのが難しいほどの重傷のようだった。

 人垣を見回すと所長がいたのでそばに行くと、気付いた所長に声をかけられた。


「セイっ! 上級HPポーションは残ってないか?」

「ああ、それなら「団長!」」


 声のした方を向くと、医師さんや看護師さんが慌しく動き出した。

 患者の容態が急変したらしい。

 私も人をき分け、患者の傍に行く。

 近くで見る患者は右上半身が焼け焦げ、に様々な傷があり、生きているのが不思議な程の重傷であった。

 荒い息が徐々に静かになっていく。


「ちょっと、どいて!」


 医師さんを押しのけ患者を見ると、間もなく息を引き取りそうな気配がした。

 慌ててエプロンのポケットに入れていた上級HPポーションを取り出し、ふたを開け、口元に持って行く。

 大きな声で「飲みなさい!」と言うと、少しずつだが、どうにか飲み込めるようだった。

 ゆっくりと彼がポーションを飲み込むのを、周りの人達もかたんで見守る。

 どれくらいの時間が過ぎたか、ポーションを全て飲み終わらせ患者を見ると、黒焦げだった皮膚ががれ、その下かられいな肌が現れていた。

 荒かった息も落ち着いたけど、それは止まっているという訳ではなく、穏やかな寝息に変わっていた。

 そこまで見届けて、ふぅっと、いい仕事したぜ的な息を吐くと、周りから「うおおおおおおおおおおおおおお」っと歓声が起こった。

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