第二幕 ポーション②


 召喚されてから、また少し時間が経ち、ジュードとも大分打ち解けた。

 私が敬語を使わなくなった程度に。

 ジュードの方が先に研究所に所属していたということもあって、最初は会社の先輩にするように接していたんだけど、年齢が近いこともあって、かしこまるのはやめて欲しいとジュードから言われたのよ。

 ジュードに教えてもらってからというもの、私は只管ひたすら、下級HPポーションを作っていた。

 それもこれも、高ランクのポーションを作れるようになるために生産スキルのレベルを上げるためにね。

 単純に、作れば作るほどレベルが上がるのが楽しかったというのもある。

 昔から、やり込み要素のあるゲームなんかが好きで、つい、のめり込んじゃうのよね。

 もちろん作った下級HPポーションは無駄にはせず、研究所での研究に使うことになった。

 最初に異変に気付いたのは、ジュードではない、ポーションを研究している研究員さんだった。


「セイ」

「何ですか?」


 少し離れた所からかかった声に振り返ると、研究員さんが手招きしているのが見えた。

 何だろうかと思いながら近寄ると、彼は作業机の上に載っている下級HPポーションを指差した。


「これ、セイが作ったポーションかな?」

「ええっと……、そうですね。私が作った物です」


 研究で使うポーションのうち、研究員が作った物については、誰が作った物か分かるように印を付けてある。

 何かあったときに追跡して原因が調べられるようにね。

 研究員さんが指差したポーションには、私が作った物だと分かる印が付けられていた。


「作るときに何か特別なこととかした?」

「いえ。特に何もしていないんですけど。どうかしましたか?」

「うーん、セイが作った物を使っているときだけ効果が変わるんだよね」


 この研究員さんはポーションの新しいレシピの開発を行っている。

 今回は既存のポーションを素材にして、より効果の高い新種のポーションを作製しようとしていたそうなんだけど、その実験中に市販のポーションと研究所で作られたポーションとで効果が変わることに気付いたらしい。

 詳しく調べるうちに、研究所で作られたポーションの中でも市販のポーションと同じ効果の出る物と、そうじゃない物があるのに気付いたらしく、結果、私が作ったポーションだけ効果が高くなることを発見したんだとか。

 研究員さんは首をかしげるけど、本当に何も特別なことはしていないのよね。

 最初にジュードに教えてもらった通りの材料と手順で作ったし、それ以外の材料を加えてもいなければ、手順を変更したりもしていない。


「これ本当に下級HPポーションなんだよね?」

「そうだと思います。作り方はジュードに教えてもらった通りに作ってるので」

「そうか。ジュードにもちょっと話を聞いてみるかな」


 研究員さんは、今度はジュードを呼ぶと私に教えた内容を聞き出していた。

 私も隣で聞いていたけど、やっぱり私が覚えているのと同じ内容だった。


「一般的な下級HPポーションの作り方だな」

「そうですね。俺はそれ以外の作り方を知らないです」

「とりあえず、セイの作ったポーションを鑑定に出してみるか」

「それが早いかもしれませんね」


 結局、原因が分からなかったので、私の作ったポーションを鑑定に出すことになったみたい。

 それからしばらくして、研究員さんがどこかに出した私が作ったポーションの鑑定結果が返ってきた。

 驚くなかれ。

 私が作ったポーションは、それ単体で、ちまたに出回っているポーションより性能がいいことが判明した。

 大体五割増しだそう。


「やっぱり、おかしな性能してるよね」


 私が作った下級HPポーションを片手にジュードがつぶやく。

 私の作製したポーションは漏れなく効果が高いみたい。

 鑑定のために何本か提出したらしいんだけど、全て市販品より効果が高かったらしいのよね。


「教えてもらった通りに作ってるだけなんだけどね」

「色も間違いなく下級HPポーションの物だけど、何でだろうね?」

「さぁ、腕がいいからとか?」

「んー、あまり関係ないと思うけど。製薬スキル、今いくつだっけ?」

「ちょっと待って。『ステータス』」


『ステータス』と唱えると、目の前に術者のみが見ることができる半透明のウィンドウが現れ、そこに私のステータスが表示される。

 これはジュードに教えてもらった生活魔法の一つ。

 そして、私が生産スキルのレベル上げに夢中になってしまった理由の一つでもある。

 スキルのレベルが数値として見えるっていうのは、やり込み要素の一つだと思うわ。

 こう数値で表されちゃうと、うっかりカンストを目指したくなっちゃうのよね。



 小鳥遊 聖  Lv.55/聖女

  HP:4,867/4,867

  MP:6,057/6,067

  戦闘スキル:

   聖属性魔法:Lv.∞

  生産スキル:

   製薬   :Lv.8



「今、8レベルだね」


 ステータスを確認し、製薬スキルのレベルを告げると、ジュードは「うーん」とうなりながら首を傾げる。


「8だと、まだ中級は作れないんだよなぁ」

「まぁ、何でもいいんじゃない? 効果が低いって訳じゃないし」

「いやいやいや、誤差で済ませられないレベルだから! こういうことの解明をするのも俺達の仕事だからね!」


 効果が高いんだからいいじゃないと思っていたのだが、ジュードいわく、こういう謎現象を研究し、原因を解明するのも研究員の仕事だと怒られた。

 仕方がないわねと、引き続きジュードの考察に付き合う。


「他の人と比べても、材料の種類も使用量も同じ、手順も同じ、違うのは作っている人間くらいだけど」

「そうなんだよなぁ」

「後、考えられるのは注ぐ魔力が違うのかってことくらいだけど……」

「ポーション作るときに大量の魔力でも注いでるの?」

「どうかしら? そんなに多く魔力を使ってはいないと思うんだけど」

「そうだよな。隣で見ていても、そんな感じはしないし……」


 薬草の量を増やしたり、注ぐ魔力の量を増やしたり、ポーションを構成する素材の分量を変更しても、他の人が作ったときには多少効果が増加するくらい。

 五割も増えるなんてことはなく、精々数%の増加程度だ。

 手順は簡単過ぎて、変更したとしても、最初に魔力を注いだお湯を作って、その中に薬草を入れて煮出したくらいかな。

 こちらは現在確立されている手順が最も効率がいいみたいで、効果が上がることはなかった。

 ジュードと一緒に、あーでもない、こーでもないと言いながら、何本ものポーションを試作して分かった結果だ。


「魔力に属性とかあるんだっけ? それが影響しているとか?」

「そこはあまり考えられないかな」

「そう?」

「魔法スキルを持っている人が作ったポーションと持っていない人が作ったポーションで効果に差は出ないしね」


 戦闘スキルの中には様々な属性の魔法スキルと呼ばれるものがある。

 この魔法スキルには生活魔法は含まれず、一般的には魔法スキルを持っている人のことを魔法が使える人って言うんだって。

 その魔法スキルを持っている人の魔力は属性を帯びていたりするのかなと思ったのだけど、ジュードの話しぶりからするとあまり関係なさそうね。


「それより、セイが魔力以外に何か出してるんじゃない?」

「何かって何よ?」

「んー、よく分からないけど」


 そう言って、ジュードが笑いながら私の手をまじまじと見る。

 その表情は冗談を言っている顔だ。

 最近は打ち解けたからか、議論の最中にジュードがこんな風に冗談を言ってくることも増えたのよね。


「一体、何なんだろうね?」


 そうして議論は最初に戻る。


「とにかく色々と試してみるしかないかしら。原因を解明するのもお仕事なんでしょ?」

「ははっ、そうだね」


 そこからまたジュードと一緒に色々な条件でポーションを作った。

 私の一日はこうしてポーション作りで過ぎていった。

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