第23話 サバイバルトレーニング

“桜京体育祭”


それはこの桜京学園で毎年開催されている二大行事の一つである。しかし、この桜京体育祭は普通の体育祭とは一味、否、二味三味も違った、他と比べてイレギュラーな体育祭でもある。


この桜京学園はよその学園に比べて所持している金額が遥かにある。この学園がどの学園より大きな敷地を持っており、様々な施設が存在しているのはそれが理由なのだが、それ故に行事にもお金をかけることが容易に可能なのである。そのため他の学園とは比べ物にならない規模の体育祭となっている。


また、この桜京体育祭には普段セキュリティによって入ることの出来ない学園の敷地内にも、開催中の時間のみ一般の人は入れる様に開放している。これもまた他の学園とは違った点だ。


さて、そんな体育祭の日まで後数日となっては学園内の雰囲気も少しばかり変わってくるわけで、どのクラスもそれぞれ自身のクラスが優勝するためにと熱心に練習に励んでいる。


それは勿論2-Aも同じなわけでまずは体育祭のための体力づくりと、全周千メートルはあろう巨大な体育館の中をそのクラスに在籍する生徒たちは、必死になって走っていた。


「はぁ…はぁ…」

「き、きっつい……」

「弱音…をぉ、吐くんじゃぁ……ないぞぉ……」

「そ、そう言うお前の方が辛そうだぞ蒼汰!」


担任のひよりから指示されたのは、「体育館の全周を八周する」という課題。つまり合計で8キロもの距離を走らなければならないわけで、息が切れ肺が焼ける程痛くなってしまうのも無理はなかった。


クラスの全員がそんな風に苦しい状態である中で、上位をキープしている蒼汰や阿翠はまだ検討している方だ。しかし、上には上がいるという話で、その者たちは規格外だという話でもある。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「おらぁぁああああああああああっ!!」


走る彼らの後ろからそんな叫び声が聞こえる。ふと、後ろを向いた瞬間彼らの横を何かが高速で通り過ぎていった。


「ってはやっ!!なんだアイツら!」

「け、犬猿の仲同士の意地の

かけた戦い……かな……?」

「す、すげえなライバル心って…」


それはユウキと有馬の二人であった。そのスピードは本当に長距離走として走っているのか聞きたくなるほどのもので、それは短距離走の際の速度と言っても過言ではない。そんな二人が必死に腕を振り、並び合いながら並走していると互いに顔を見つめう。


「「ちっ!」」


お互い舌打ちを交わした次の瞬間、共に走る速度が更に倍増していく。


「「絶対負けねぇぇぇぇ!!」


両者引かずあっという間に8キロメートルもの距離をトップで走り切った。また、勝負の行方はと言うとそのまま並走し続けていたため、とどのつまり同着という形で戦いは幕を閉じる羽目となった。


そして、両者とも今の姿は無残なもので、


「はぁ…はぁ…はぁ…やっ、やっべえ死ぬ………」

「ぜぇ……はぁ……」


地面に大の字になってそのまま寝っ転がる二人は共に汗だくで、喉は乾ききっている。その状態がそのまま維持されたまま、しばらくすると徐々にゴールする者が増え始めた。


「おいおい、大丈夫か?」


すると、ユウキと有馬に続いて三着で今さっき走り切ったばかりの凛が、首にかけたタオルで汗を拭きながら歩み寄ってきた。凛自身、大丈夫かと訊いたものの姿からして大丈夫ではないことは容易にわかっていた。


「ほい、差し入れ」


彼は疲れ切ってしまっている二人に差し入れとしてタオルと冷えた水が入ったペットボトルを渡した。


「おお、サンキュー」


ユウキは感謝を告げてタオルで汗を拭きペットボトルの中の水を口に流し込み、喉を冷やし潤した。有馬も同じ様にタオルを首に駆けながらペットボトルを潰しながら一気に飲み込んでいた。


「それにしてもお前らどうしてそこまで飛ばすんだよ、これ長距離だぞ?」

「どうしてもこいつには負けたくなかったから」

「こいつが調子にのってる姿を見たくねぇからだ」

「「あぁ?」」


どうやら今日も二人は通常運転らしい。


それから続々とゴールする者が増えそして最後の人物が今走り切り、ジャージ姿のひよりは疲れたクラスの生徒の様子を見ながら呼びかける様に言った。。


「ハーイ皆!後十分休憩していいからそれが終わったら、また他の練習始めるよー!」


ひよりがそう呼びかけるとほぼ全員が「えー!」と如何にも嫌だという声を上げた。その中を代表してユウキが彼女に向かって言う。


「ちょ、ひより先生!こんなに体力とか筋肉とかつける必要あるんですか?やるからにはやっぱり異能を伸ばすべきだと思うんですけど!」

「こーら!そういうことは言っちゃだめでしょ!確かに今は異能が重視されてるけど何も異能が全てじゃないのよ?こういう練習もしっかりとやっていかないと、後になって後悔するよ!それにこういう基礎でも異能は上昇するからなんにせよ異能も十分伸びるよ。だからそう言うことは言わない事、分かった?」

「はーい」


ひよりの言葉に納得したユウキは気の抜けた声で返事をした。正直に言えばこの時凛もユウキには一言か二言言いたいと考えていたのだが、どうやらひよりが彼の言いたかったことを変わりに言ってくれたようで凛はそのまま口を閉じたのだった。


しばらく経ち十分後、体育座りをする2-Aの生徒たちにひよりは次の練習種目を伝える。


「さて時間も時間なのでこれで今日はラストの練習になるわけだけど、これからやる練習はサバイバルトレーニングだよ!」

『えーーーー!!!』


またしても、先ほど聞いたばかりの不平不満のたっぷり詰まった声をみんなで上げる。しかし、凛からすればその声の理由もそのサバイバルトレーニングとやらもよくわからない。


「さて、じゃあトレーニングに当たってまずはステージを作らないとね!」


そう言ってひよりが指をパチンと荒らした瞬間、体育館全体が揺れ始めそして床が真っ二つに割れるとそこから人口の森林が姿を現した。よく見てみれば真ん中の方には小さな山もあり、再現度がより高いモノとなっている。


「さて、転校生の翔君はこのサバイバルトレーニングがよくわからないと思うから、改めて説明するね。これはクラス全二十人総勢で行う生き残りをかけたトレーニング、基戦いです!皆にはこのスカーフを腕に着けてもらい、これを取られたらそこでゲームオーバー、これが最後に残った一人が勝者というルールです!」


かなり単純なルールであったので内容はすぐに把握することができた。


「さぁ、ルールの説明も終わったらあとはやるのみ!さあみんな行った行った!!」


ひよりが元気よく全員を森林の中へと行くように急かし、皆嫌そうにしつつも走りながら森林の中へと入っていった。皆がそれぞれ違う場所にバラバラに散らばり、クラスメイト―――基敵から見つからないような場所を見つけ、そこをスタート地点にしている。


凛もそれは同じで見つかりにくい山の傾斜に身を潜めている。


《それじゃあ早速始めるよー!!》


体育館にひよりのアナウンスが聞こえそして、スタートの合図が鳴る。


《よーい……スタート!!》


ひよりの言葉と共にサバイバルトレーニングが幕を開ける。凛はひとまず身を潜めたまま一つ考える。


凛は今こうして学園生活を送っておりその生活の中では、自分の正体を隠すためと卒業する前にアルヴァンに推薦をされない様にするためにあえて実力を隠している。


今までにもこのような順位の決まる訓練だったり練習は何度もあったのだが、その際はいつも中盤よりも少し上かその中盤か、そのあたりを取っていた。


しかし、最近になって凛にはユウキから教えてもらったとある情報があり、それはその授業内での訓練での順位も一部成績に関わってくるという事。


つまり順位が中途半端だと成績も中途半端になる可能性があるのだ。


凛は確かに今現在の状態でアルヴァンに入るつもりは一切ないが、学園内で自分に足りない物を探しそれを学び身に着けしっかりと卒業をしてからならアルヴァンに入るつもりはある。


そしてそのアルヴァンに入るためには成績もよい必要があるのは言わずもがな、つまり中途半端ではなくいい感じに高い成績を取らないといけないのだ。


と、なると今回はやはり取るからには高い順位を取る必要がある。よって今回のこのサバイバルトレーニングは順位は上を狙うこととする。


ひとまず動こうとした凛だったのだが、次の瞬間後ろから人の気配を感じすぐに後ろに顔を向けると、上から何者かが襲い掛かってきた。


――――最初からマークされてたのか!


凛は体を転がして上からのその攻撃を避けつつ立ち上がり、その人物を目に映す。その者はユウキであった。


「お前かよ!」

「そうだ、俺だよ!お前とはなんだかんだでまともに戦ったことはなかったからな……だから良い機会だ、一試合行こうぜ!」


刹那、ユウキの足元に青い稲妻が迸り足を強く踏み込み飛び出ると共に強く加速する。勢いよく突っ込んでくる彼に対し凛は腕をクロスし守りの姿勢を取ると、ユウキから鋭い拳が繰り出される。


「くっ……」


凛の腕に繰り出されたそれにより殴り飛ばされた凛は空中で態勢を整えつつ着地をすると、その後も間合いを詰めたユウキは幾多も攻撃を繰り出し続ける。


「さぁ、お前の力そんなもんじゃないだろ!」

「……めんどくさいなっ!」


凛は大きく腕を振りかぶって拳を繰り出す。ユウキはそれを見てニヤッと笑い同じ様に青い稲妻の纏われた拳を繰り出した。拳と拳のぶつかり合い、衝突の瞬間に空間を強くピりつかせた。


「うぉっ……初めてお前の拳とぶつかったけど……結構重いな、よっと!」

「そりゃどーもっ!」


凛の攻撃に感心しつつ蹴りを繰り出してきたユウキだったが、それを避けた凛はすぐさま彼の腕に巻いてあったスカーフを取って見せた。


「あっ!お前っ!」

「放課後にでもまた戦ってやるから今は許せ」


スカーフを手に入れた凛はそれから山の中を散策しまだ残っているクラスメイトを探す。広い範囲で散策すると多くのクラスメイトがまだ残っており、その人物らから凛はスカーフを取っていき脱落者を増やす。


しばらくして森林の中を走る凛の耳にアナウンスが入ってくる。


《残り五人だよー!ラストスパートがんばってね!」


残り五人、開始から約三十分でここまで減るのはかなり速いペースか。しかし凛が今回のこの訓練で上位に入ることは確定した。


――――今回くらいは一位を狙ってもいいか


そこで凛は今回のこのサバイバルトレーニングで一位を取ることを胸に決意し散策をつづけた。しばらくするとヒンヤリと冷たい空気が凛の鼻孔を反応させる。近づくとそこには一人の少年がおりそしてその少年の足元一面は氷の地面と化している。


凛はゆっくりと地面を歩きその人物の方へと歩み寄っていく。


「お、転校生の翔君だ」


青髪の短髪に少し子供っぽさの残る童顔であるクラスメイト、氷野彪雅であった。


「あれえっと……確か彪雅で、あってるか?」

「そ、俺の名前は氷野彪雅だよ。よろしくね、翔君」

「ああ、こちらこそ」


凛はこの彪雅のことを決して目にしたことがなかったという訳ではない。教室で良く静かに座っている印象があり、少し物静かなイメージがあったのだが、実際は少し気さくな人物の様だと彼は思っていた。


凛がふと彪雅の腕に目線を下ろすと、その腕には多くのスカーフが巻かれており何人もからスカーフを取ってきたことが明らかだ。


「さて、それじゃあ俺たちも戦おうか」

「勿論だ。一位は俺が貰うぞ」


二人は共に構えて見せた。




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