聖魔法1
食事を届けに行くという母子に連れられて、ランは修道院に向かっていた。
実際の中世では修道院が病院の代わりも担っており、ゲームもそれが基準となっているのだろう。
どうやら、先ほどの話からするとケガ人たちがいるようだ。
ランはそれを聖女のみが使える聖魔法ホーリーヒールで治療して、自らが聖女だと証明しようと考えている。
(ふふふ……これで野生児の称号から脱出できるわね!)
ランはニヤリと笑っていた。
無邪気なフリアがそれを覗き込んでくる。
「ねぇねぇ、ランさんって家族はいるの?」
「家族か~……いるような、いないような……」
ゲーム内の設定では天涯孤独の聖女であり、前世では普通に両親と姉がいた感じだ。
今の感覚的には何とも言えない。
「家はね、お母さんと、あたしと、妹と、それと王都に住んでいるお兄ちゃんがいるの!」
「へ~、王都にお兄ちゃんがいるのか~。意外とどこかで会っているかも」
「お兄ちゃんはとっても優しくて、賢くて、強くてカッコイイの! それでね、妹はあんまり喋らないけど走るのが大好きで、行商人になって世界を回りたい夢があってね!」
「うんうん」
小さな女の子が一生懸命話しているのは可愛いな~と、ほのぼのした気持ちになってしまう。
「だから、あたしも苦手な勉強を頑張って、いっぱいお手伝いしてお小遣いを貯めて、いつか妹と一緒に行商人になるのが夢なんだ!」
「偉いな~。私は小さいとき、ちゃんとした目標なんてなかったなぁ……。フリアちゃんと――妹のフリンちゃんの夢、叶うといいね!」
「うん、叶う! 絶対に妹と一緒に夢を叶えるんだ!」
(は~、眩し可愛い~。同じ商人でも、フィナンジェも……もうちょっと可愛げがあったらな~……!)
背が高く自信満々な表情のイケメンが脳裏に浮かんでくる。
きっと、いつもそんな感じで完璧であり続けるのだろうと想像に難くない。
そうしている内に修道院に到着した。
レンガ作りの建物だが、かなりの年季が入っているようで苔やツタが覆っている。
扉辺りは掃除されているので無事だ。
「失礼します。パンを持ってきました」
「はい、いつもありがとうございます」
ヴィジーが戸を開けて、中にいた修道士に大きなバスケットを渡した。
ランもそれに続いて中に入る。
「あの、少し見学していってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、ただしお静かに願いします」
「ありがとうございます」
ランは王都でみっちり仕込まれた教会式のお辞儀をすると、相手も同業者だと気付いたようで同じようにお辞儀をしてきた。
中を見回すと、いくつものベッドが置かれていた。
いかにも場所が足りなくて急ごしらえで設置したという雰囲気だ。
その上にはケガや病気の人間がかなりの人数寝ているのが見える。
「この小さな村の規模的に、ケガ人が多すぎる……」
「それは帝国兵が……気に入らないと暴力を振るうことがあって……。それと、不思議と不運が起こり……。もしかして、我らが神がお怒りなのでしょうか」
心配そうにする修道士の言葉に、ランは思い出したことがあった。
ゲームではあまり詳しく描写されていないローネ村なのだが、不運が続いてから隕石が落下するというフラグがあったのだ。
まだ隕石落下まで数日があるのだが、その日まで不運が続くのだろう。
早めに壊れた天空のブローチで平気かどうか試したいとランが考えていた。
天空のブローチでイベントが阻止できない場合、絶対に隕石が落ちる強制イベントに分岐するからだ。
そんなことを考えていたとき――
「おう、綺麗な姉ちゃんじゃねーか! オレのことも看病してくれよ、全身を丁寧にさぁ!」
「うっわ、ガラわっる……」
病人の一人が声をかけてきたのだが、ベッドの横に見たことのある鎧が置いてあるので帝国兵なのだろう。
ランはプイッと違う方向を向いてスルーした。
「おいおい、オレに逆らうとどうなるか――」
今はこんなのを相手にしている場合ではない。
することがあるのだ。
溜め息を吐いてから奥へ進もうとしたのだが、そちらから慌てて修道女が走ってきた。
「あ、ヴィジーさん! 今から呼びに行こうと思っていたんです!」
「どうしましたか?」
「お宅のフリンちゃんが大変なんです! 先ほど運び込まれてきて!」
驚いた顔をしているヴィジーを、修道女が強引に引っ張って行く。
心配そうな顔をしたフリアの手を握り、ランも一緒に付いて行くことにした。
独特な薬草のきつい臭い、左右から聞こえるうめき声と、否応なしに不安が襲ってくる。
握っている手からフリアの震えが伝わってきた。
ランはそれをギュッと握りしめて、大丈夫だよ――と強い意思を秘めた言葉を伝える。
――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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