M山歯科

私の家系は歯が弱い。歯以外は丈夫なのだが、歯はどうやってもだめだ。なので、私も幼稚園の頃から歯科で治療を受けている。




私が初めて通った歯科は『M山歯科』という。実家の近くで開業していた。母が娘時代から通っていたらしく、自然と私もそこに行くようになった。虫歯治療にはあの尖った器具で削られるのだけど、幼児のためなのか麻酔を使うことはなかった。私はいつも泣き叫んでいて、そのたびに先生が「ほら、今虫歯の菌ちゃん、ブランコ乗っているぞ!捕まえた。やっつけたぞ!!」などとやって気を紛らわせてくれていた。もう少し大きくなると、小学校高学年くらいだったかな?痛かったら手を挙げてと言われ、多少我慢はしたけど限界のところで手を挙げる。でも、「大丈夫!大丈夫!」と言って、削るのをやめない。手を挙げてって言う意味ないんじゃないか?といつも思っていた。そんな感じなので、学校の4月の歯科検診のあとはいつも憂鬱だった。




その先生がある日急に歯科医院をやめた。理由は分からないが、テナントビルに入っていたため、その後に新しく入った歯科で治療を受ける。先生も沢山いて、みんな若い。初めてそこで治療を受けた時、私はすごく驚いた。全然痛くない。唾液を吸い取る器具なども装着され、なんだか新しい。麻酔もしてくれた。平成の初めごろの事だった。




歯科というのは、最初のような治療が普通だと思って疑わなかったけど、結構違うものなんだとその時初めて知った。一番不思議なのは、そのM山先生は見た目40代くらいの感じだったが、何年経っても40代のままだった。聞くと母が若い頃から40代くらいに見えたそうで、それから30年くらい経っているのに歳を取らない。「娘だった私がこんなおばちゃんになっているのにね。」と母も不思議がっていた。みんな親しみを込めて『バケモノ』と言っていた。昭和の話なので、整形などはそんなに発達していないと思うけど、未だにあの若さは謎である。



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