第18話 完成
「柚香、あんた大丈夫?」
「ストーカーはれっきとした犯罪だから、学校では私達が守るし、プライベートでも被害ありそうなら、先生達じゃなくて、警察に相談した方が、良いよ!」
波島さんや果歩が心配して話しかけてくる。
「心配してくれてるとこ申し訳ないけど、あれ、色々事情あって、事実と違う形で校内に伝わってるから...」
彼女達に悪気はないんだ。
私は、感情的にならないように、必死に気持ちを抑えながら、今回の件はデマであることを伝えた。
「いや、動画を見たら下田がやばいやつっての分かるよ。目やばかったもん、脅されてるかじゃないの?...」
私を心配してとはいえ、果歩の発言に対して、少しずつ自分の感情が荒立ってくるのが分かった。
多分、ここで誤解を解こうとしても拉致があかない。
「ごめん、この話は一回やめてもらっていいかな。」
「う、うん。ごめん。」
私は、これ以上、気分を悪くしたくなかったので、時間の話題を無理やり終わらせ、席を離れた。
「できたぁぁぁぁぁ!!!」
缶詰状態で2日かかった。
白雪姫と王子様、どちらも、予定していたより時間がかかった。
まぁ、製作中に楽しくなってきたせいで、色々装飾を付け足したのが主な原因ではあるが。
[衣装、完成した。本番までに渡したいんだが、どこかで待ち合わせて渡そうか?]
とりあえず、白仲にLIMEをいれて、俺はすぐさま眠りについた。
目覚めたのは次の日の朝。
LIMEを見ると、昨日の夜に白仲からメッセージが入っていた。
[明後日うちに来ない?]
そうきたか。
しかし、今の俺が家に行くのは、タイミング的にもあまり良くないんじゃないだろうか。
[白仲家の皆に合わせる顔がない。]
[何言ってんの?]
秒で返信が返ってきた。休み時間か?
文面を見る限り、なんか怒ってるような気がする。
[皆がいいなら、それでお願いします。]
[じゃあ、明日、19時にうちで。]
[へい。]
LIMEのせいかな?キャラ変わってない?
なんか強気というか、芯が通ったというか。
俺はLIMEのトークをしただけで謎に気圧されながら、白仲家再訪の約束を行った。
昨日の夜は作業を終えてからそのまま寝落ちたので、俺はまず寝起きで風呂に入った。
そして今は、風呂上がりの緑茶ゴク飲みタイムだ。
「ぷっっっはぁぁぁぉぁぁあ キマってきたぁ!」
「兄貴。」
おっと、後ろに菜月。
後ろに菜月??
「おまっ、学校は?」
「サボった。」
「マジ?そういうタイプじゃないだろ?」
「嘘。創立記念日。」
「なんじゃい。」
謹慎期間中に、午前中から誰かと一緒にいるのは初めてなので、何気に嬉しい。
菜月も寝起きなのか、少し崩れた髪に、いつもより少しだけのぺーとした顔で、小さい嘘をついてきた。
菜月は休日でグデる時によく着てる部屋着のショートパンツにオーバーサイズのtシャツ姿で、まさにオフモードという感じだ。
1人は好きだったが、こういう時は妹でも、他人がいると、少しテンション上がるな。話し相手の存在は大事だ。
俺は意外と寂しがり屋なのかもしれない。
「兄貴、衣装、見たい。」
「お、おう、まだ片付けてないけど、上くる?」
「うん。」
一度だけ劇の衣装作ってることは軽く話したが、一応、興味は持ってくれていたのか。
俺は、何年振りか分からないが、菜月を自部屋に招き入れる。
「ほれ。白雪姫と王子様の衣装だ。」
菜月に、部屋に置いている完成した衣装を見せる。
俺は緊張していた。この渾身の力作を人に見せるのは初めてだ。
だ、大丈夫だよな...
相手が妹とはいえ、力作の衣装に対して、現役女子中学生にダサいとか言われたら、膝から崩れ落ちる自信がある。
「...き、綺麗。」
「そ、そうか。ありがとう。」
あくまで兄として冷静な装いで返すが、
心の中では、
よっしゃぁぁあ! と叫びながら、ガッツポーズをかましていた。
家族との会話というものは、他人と話す時より、気遣いがないものだ。
だからこそ、家族のこういった純粋な反応は本当に嬉しい。
「学祭の劇、俺は出ないけど、予定合って気が向けば、ぜひ観に来てくれ。」
「元から友達と行く予定。」
「そっか。当日は楽しんでな。よし、一階に戻るか。」
「...ゲームしたい。」
菜月は、一階に戻ろうとした俺の袖を掴んで、俺の部屋のゲーム機、pn4を指差して言ってきた。
「そっか、4に変わってからやらしたことなかったな。こんな滅多に機会ねぇし、久しぶりにやるか。」
「やりたい。」
その日、菜月と2人でゲームを一日中やりまくった。
終始ボッコボコにされた。なんで??
翌日の夕方、俺は百貨店で菓子折りを買ってから、白仲家に向かう。
まさか、こんなにも短いスパンで白仲家に再訪することになるとは。
そういえば、この予定が入ったから髪切るのは謹慎期間の最終日とかになりそうだな。
白仲家の面々に対面したら、まず、謝罪しよう。
俺の暴力行為のせいで、ご両親にも連絡がいってるはずだ。大事な娘さんが嫌な事件に巻き込まれたんだ、さぞかし心配しただろう。
あれこれ考えていたら、白仲家に着いてしまった。
俺は、覚悟を決めて、心に浮かんでくるネガティブを振り払うように、白仲家のインターホンを押した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます