戦場に降るきみの歌

作者 羽鳥さぁら

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★★★ Excellent!!!

 彼女の体には麻痺がある。指の動きも、足の運びも、文字を読むのだってとてもゆっくりで、きっと肩身の狭い思いをしているに違いないのだけれど、それでも「できることは時間をかけてでも自分でやりたい」と彼女は言う。
 工場で彼女に仕事を教えるうちに、僕はいつの間にか効率重視の空気に染まって感性をすり減らしていた自分自身に気づく。

 身を守るための感性の抑圧。それは戦場に出た兵士たちが経験するのと同じものだ。

 もし彼女と出会っていなかったら、道端に落ちたスズメの雛にだって気づかなかった――いや、たとえ気づいても、かわいそうだと思ったり、まして助けてやったりすることなんてなかっただろう。
 人の何倍も時間をかけて丁寧に生きるからこそ見えるものがある。感じられるものがある。喜びも、悲しみも、怒りも、言いようのない彼女への思いも、すべて彼女が取り戻し、与えてくれた。

 鮮やかな感性を守るのは、あえて戦場の鋭い風に生身を晒すのと同じかもしれない。

 でも、きっと彼女はその風に立ち向かう方法を知っている。
 彼女は歌う。彼女は歌が好きだ。僕も彼女の歌が好きだ。だからじっと耳を傾けよう。彼女が何の歌を歌っているのか、わかるように。