洗礼

 いずみのほとりにいた僕達ぼくたちうまめ、ようえだあつめていた。

「それにしても、今日きょうかぎってなんでをするんだろ?」

 これまでは昼間ひるまあるき、よるは三、四ほんにヒモをぐるりとまわしてぬのかぶせた簡易かんいテントでねむった。

 最初さいしょ、テントをるカガリをていた灯花とうかは「オー!ジャパニーズニンジャ!」などと意味不明いみふめいなハイテンションでさわはじめ、カガリの真似まねをして自分じぶんぼくのテントを素早すばやってくれた。

 理由りゆうかんがえるならおそらく……お風呂ふろ

 それなら水場みずば野営地やえいちえらんだのも納得なっとくできる。

 三日もはいらなければ流石さすが色々いろいろにおうし……。

風呂ふろかぁ」

 あせよごれをとしたい気持きもちはあるものの、ここには灯花とうかという年頃としごろの女の子が居るわけで。

(……っていうか、カガリはどっちなんだろう?)

 一人称いちにんしょうから男とめつけていたけど、本人ほんにんからいたわけでもなければとく確認かくにんをしてもない。

 ながかみたかめのこえ……しかし子供こどもなので外見がいけんから判断はんだんするのはむずかしい。

 僕はあたまかかえた。

 もしカガリが男だったら、僕とカガリの二人ではいるだろう。多少たしょうつかうけど、それなら何事なにごとわる。

 問題もんだいなのはカガリが女だった場合ばあい……つまり、僕が一人だけではいことになったときだ。

 間違まちがいなくヤツ・・る。


「ユウえだあつわりましたぞ~」


 まええているのかあやしいくらいの、身長しんちょう以上いじょうたかさにがったえだやまかかえる灯花とうか

「お、おう。じゃ、カガリのところもどるか」



灯花とうかちゃんすごいね……!」

 カガリも予想外よそうがいだったのか、大量たいりょうえだおどろく。

「ムフフ……!拙者せっしゃはすごいでござろう!」

 められてドヤがお灯花とうか

「カガリ、えだをこんなにあつめてどうするんだ?」

「うん、こんなには必要ひつようなかったんだけどね」

 すこきつった表情ひょうじょうから普段ふだんかおもどってカガリははなす。

「これから二人のどちらかに"洗礼せんれい"をけてもらいたいとおもっててね」

 予想よそうしていなかったこたえに僕だけでなく灯花とうかおどろく。

予定外よていがい盗賊とうぞくとの接触せっしょくでボクは聖法イズナ使つかうための法力マナ消耗しょうもうしてしまった。だから、もしものときのために二人のどちらかに”洗礼せんれい”をけて聖法イズナ使つかえるようになってほしいんだ」


「…………?」

「…………?」


 あまりに突然とつぜんはなしあたまがついてけなかった僕と灯花とうかは、なにえずにおたがいのかお見合みあわせていた。

「……二人とも?」

「カ、カガリ聖法イズナとはそんなに簡単かんたん使つかえるものなのでござるか?」

 戸惑とまどいをかくせずにいながらも、灯花とうか質問しつもんする。

「"洗礼せんれい"をければね。使つかえるようになる聖法イズナ儀式ぎしき担当たんとうする聖法イズナ使つか次第しだいだけど」

 僕としては、異世界いせかいという非日常ひにちじょうたいしてあまり恐怖きょうふかんじてない灯花とうか適任てきにんおもえる。

拙者せっしゃとユウの二人で儀式ぎしきけたほう使つかえるぶん効率的こうりつてきなのではござらぬか?」

儀式ぎしき使つかう"聖王樹せいおうじゅはい"は貴重品きちょうひんで、ボクがってるのも一回分だけ……。だから二人一緒いっしょ使つかうにはりょうりないんだ」

 カガリはすこ残念ざんねんそうな表情ひょうじょうをする。

 おそらく、カガリも出来できることならそうしたかったのかもれない。

「ボクとしてはユウ君にたのもうかと思ったけど……どうだろう?」

 僕にけてカガリがいかける。


「うーん……僕よりも灯」


「やはり!ユウすごいでござるなぁ!」

 清々すがすがしいほど強引ごういんに、灯花とうかよこから言葉ことばませる。

灯花とうか?」

「男の子あこがれの魔法まほう使つかいになれるチャンスを、こうもしっかりとてるとは……拙者せっしゃ是非ぜひその強運きょううんにあやかりたいものでござる!」

 どうしていきなり灯花とうかんできたのか、ここまでわれて僕は気付きづいた。

「で、でも灯花とうか……」

いかけた僕のくち灯花とうか人差ひとさゆびおさえる。

「ユウ……やりたいことがあっても自分じぶんよりまわりを優先ゆうせんさせるとこ、カッコよくてきだよ。でも、いまはユウのしたいようにしていんだからね」

 いつもとちが雰囲気ふんいき言葉ことばからかんじるやさしさは、いままでてきたどの言動げんどうとも程遠ほどとおい……灯花とうかから僕への叱咤激励エールのようだった。

「ユウ君に"洗礼せんれい"をけてもらうってことで……いんだよね?」

 不安ふあんそうな表情ひょうじょうのカガリ。

 ここまでお膳立ぜんだてされてがるわけにはいかない。

パンッと、僕は自分じぶんかおてて気合きあいれた。

「うん。洗礼せんれいは……僕がける!」

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