幼なじみギャル(偽)と異世界転移したら金髪ショタ(謎)に保護されました

合流

「なぁ、灯花（とうか）」

「なんでござる？」

「聖法（イズナ）って、使（つか）えたらけっこう便利（べんり）そうだよな」

　地面（じめん）に露出（ろしゅつ）した木（き）の根（ね）に座（すわ）り、自分（じぶん）にかけられた不思議（ふしぎ）な魔法（まほう）(聖法？)を思（おも）い出（だ）しながら話（はな）す。

「身体（しんたい）強化（きょうか）をした上（うえ）に足音（あしおと）を消（け）す。野生（やせい）動物（どうぶつ）の興奮（こうふん）を鎮（しず）める。補助（ほじょ）魔法（まほう）は冒険（ぼうけん）に必須（ひっす）のスキルとは言（い）え、とんでもないチートでござるな！」

　何故（なぜ）か異様（いよう）にテンションの高（たか）い灯花（とうか）。

「僕（ぼく）も使（つか）えるようになりたいな……」

「おお！オタクじゃなくとも魔法（まほう）に憧（あこが）れるとは……流石（さすが）は男の子！」

　灯花（とうか）は高（たか）いテンションを維持（いじ）したまま話（はなし）を続（つづ）ける。

「しかし、ヒーラーがパーティーに二人は偏（かたよ）ってるような気（き）が……。ついでに言（い）えば消去法（しょうきょほう）で拙者（せっしゃ）が攻撃（こうげき）を担当（たんとう）することになりそうでござるし」

　言葉（ことば）とは裏腹（うらはら）に"自分（じぶん）が攻撃（こうげき）を担当（たんとう）する"という部分（ぶぶん）に嬉（うれ）しそうな顔（かお）を隠（かく）さない灯花（とうか）。

「良（い）いんじゃないか？飛（と）んできた矢（や）を掴（つか）んでた時点（じてん）で人間業（にんげんわざ）じゃないし」

　何処（どこ）かから飛（と）んできた矢（や）を弾（はじ）くのではなく手（て）で掴（つか）んだのを見（み）た時（とき）、灯花（とうか）の底（そこ）の見（み）えなさに内心（ないしん）震（ふる）えた。

「あれはちゃんと矢（や）を見（み）ていれば誰（だれ）でも出来（でき）るでござるよ。時代劇（じだいげき）でもよく日本刀（にほんとう）で矢を切（き）り払（はら）っているではござらぬか」

　現代（げんだい）の女子高生（じょしこうせい）が侍（さむらい）レベルの身体（しんたい）能力（のうりょく）を持（も）ってる時点（じてん）でおかしいと思（おも）うんだけどな……。

「女子（じょし）ソフトボール同好会（どうこうかい）に助（すけ）っ人（と）参戦（さんせん）した時（とき）に見（み）た球（たま）より少（すこ）し早（はや）いくらいでござるから、ユウ氏（し）もその気（き）になればきっと出来（でき）るでござる！」

「いいや、矢がソフトボールより少（すこ）し早（はや）いだけなんて絶対（ぜったい）ウソだ」

本気（ほんき）にして灯花（とうか）の感覚（かんかく）で動（うご）くとエライ目（め）に合（あ）うのは知（し）ってる。

「それにしても、急（きゅう）に体（からだ）に疲（つか）れが出（で）てきたでござるな……。効果（こうか）切（ぎ）れかも知（し）れないでござる」

｢僕はだいぶ前（まえ）からヘトヘトだったんだけどな」

　それからしばらく経（た）っていたのにも関（かか）わらず、今（いま）まで灯花（とうか）は疲（つか）れを見（み）せていなかった。

　僕にペースを合（あ）わせていたからなのか？

「……カガリに何（なに）かあったのかな？」

　僕でもあれだけ速（はや）く走（はし）れたのだから、カガリも逃（に）げに徹（てっ）すれば心配（しんぱい）無（な）いだろうと思（おも）うけど。

「ただのターン数（すう）経過（けいか）による効果（こうか）切（ぎ）れだと思（おも）うでござる」

「……時間（じかん）経過（けいか）ってことだよな？」

　わかりづらいからゲームみたいに言（い）うな。

　まぁ、それは置（お）いといて……。

　僕達は果（は）たして今日中（きょうじゅう）に泉（いずみ）までたどり着（つ）けるのだろうか？

　いや、そもそも当初（とうしょ）の予定（よてい）通（どお）り街（まち）まで行（い）けるのか？

　盗賊（とうぞく）との遭遇（そうぐう）なんて完全（かんぜん）に予定外（よていがい）だったし。

　……カガリに指示（しじ）された方向（ほうこう）へ走（はし）ったから合流（ごうりゅう）はなんとかなると思（おも）うけど。

「ん？ユウ氏（し）、何（なに）か聞（き）こえないでござるか？」

　灯花（とうか）が足（あし）を止（と）めて耳（みみ）をすます。

「言（い）われてみれば……」

　森（もり）の木々（きぎ）を抜（ぬ）ける風（かぜ）が弱（よわ）くなる瞬間（しゅんかん）、どこかから何（なに）かが流（なが）れるような音（おと）が聞（き）こえた。

「水（みず）の流（なが）れる音（おと）……近（ちか）くに川（かわ）でもありそうでござるな」

　その言葉（ことば）で今日（きょう）一日（いちにち）の疲労感（ひろうかん）が軽（かる）くなったような気（き）がした。

「喉（のど）も乾（かわ）いたし、川（かわ）を探（さが）して水（みず）を飲（の）むか？」

　実（じつ）を言（い）うと喉（のど）だけでなくお腹（なか）も空（す）いているのだが、今（いま）は水（みず）が飲（の）めるだけでも充分（じゅうぶん）。

「う～ん……。川（かわ）を探（さが）すのには賛成（さんせい）でござるが、すぐ飲（の）むのは反対（はんたい）でござるな。

　灯花（とうか）は冷静（れいせい）に話（はな）す。

「森（もり）の中（なか）に流（なが）れる川（かわ）には寄生虫（きせいちゅう）やそれを含（ふく）んだ動物（どうぶう）の糞（ふん）が混（ま）じっている可能性（かのうせい）があるでござる」

　ろ過（か）して沸（わ）かさないと飲（の）むのは危険（きけん）でござるよ……と灯花（とうか）は言（い）った。

「なるほど……。なんで川（かわ）を探（さが）すのには賛成（さんせい）なんだ？」

「川（かわ）はどこかで泉（いずみ）や湖（みずうみ）に繋（つな）がってるでござろうし、もしかするとそこでカガリ氏（し）と合流（ごうりゅう）できるかも知（し）れないでござるからな」

(野営地（やえいち）は泉（いずみ）って言（い）ってたもんな)

　となると、問題点（もんだいてん）が一つ出（で）てくる。

「どっちに進（すす）むんだ？」

「"どっち"と言うと？」

　灯花（とうか）は目（め）をパチクリさせた。

「川（かわ）の流（なが）れに沿（そ）って下（くだ）るのか上（のぼ）るのか？下（くだ）ればいつかは海（うみ）に出（で）るだろうし、上（のぼ）れば水源（すいげん）まで行（い）くだろ？泉（いずみ）はどっちにあると思（おも）う？」

　そこまで考（かんが）えていなかったのか、灯花（とうか）はここで悩（なや）み始（はじ）める。

「やはり楽（らく）な下（くだ）り道（みち）を選（えら）ぶべきでござるか……。いや、簡単（かんたん）な方（ほう）を選（えら）ぶと失敗（しっぱい）するのがお決（き）まりのパターンでござるし……。かと言（い）ってその考（かんが）えの裏（うら）をかくパターンも……」

　灯花（とうか）は思考（しこう）の無限（むげん）ループに入（はい）りつつあったが。

「……考（かんが）えるのはやめたでござる」

　と言（い）って立（た）ち上（あ）がり歩（ある）き出（だ）した。

「お、おい灯花（とうか）！どこに行（い）くんだよ？」

　急（きゅう）な動（うご）きに驚（おどろ）きつつ、僕も立（た）ち上（あ）がる。

「カガリ氏（し）の指差（ゆびさ）した方向（ほうこう）に進（すす）み続（つづ）けて来（き）たのだから、もうしばらくその方向（ほうこう）に進（すす）むでござるよ」

　灯花（とうか）の野性的（やせいてき）な直感（ちょっかん）に期待（きたい）していた僕は予想外（よそうがい）の言葉（ことば）に面食（めんく）らった。

「そもそもカガリ氏（し）の示（しめ）した方向（ほうこう）に進（すす）み続（つづ）けたことで川（かわ）の水音（みずおと）が聞（き）こえてきたのであれば、最初（さいしょ）から予定（よてい）通（どお）りの正（ただ）しい方向（ほうこう）に進（すす）んでいたと考（かんが）えるのが自然（しぜん）でござる」

　灯花（とうか）の言葉（ことば）から、カガリと別（わか）れた時（とき）の事（こと）を思（おも）い出（だ）す。

　あの時（とき）、カガリは僕達の進（すす）む方向（ほうこう）を指定（してい）した。

　進行（しんこう）方向（ほうこう）を変（か）えずに真（ま）っすぐ走（はし）って来（き）たことを考（かんが）えると、確（たし）かに灯花（とうか）の言（い）っている事（こと）が正（ただ）しく思（おも）える。

「夕陽（ゆうひ）の明（あか）るさもさっきよりずっと弱（よわ）くなってきたでござるし、急（いそ）がないと日没（にちぼつ）までに合流（ごうりゅう）できないかも知（し）れないでござるな……」

　そう話（はな）す内（うち）にも陽（ひ）の光（ひかり）はどんどん弱（よわ）まっていく。

「灯花（とうか）……」

　今日（きょう）はもう無理（むり）に動（うご）かずここで休（やす）もう……と言（い）おうとしたその時（とき）。

「あれ？二人ともまだ着（つ）いてなかったの？」

　音（おと）も無（な）く現（あらわ）れた荷車（にぐるま）を引（ひ）く巨大（きょだい）な馬（うま）と、背中（せなか）に乗（の）っている見知（みし）った顔（かお）を見（み）て僕と灯花（とうか）は歓声（かんせい）を上（あ）げていた。

「カガリ！」

「カガリ氏（し）！」

　僕と灯花（とうか）はカガリに駆（か）け寄（よ）る。

「もう着（つ）いてる頃（ころ）だと思（おも）って速身の聖法（シフ）を解除（かいじょ）しちゃったよ。ごめんね」

「僕達だけ逃（に）がしてもらったのにそんな事（こと）気（き）にしなくていいって！それよりこれ（・・）は？」

　馬（うま）と荷車（にぐるま）に目（め）を向（む）け訊（き）く。

「逃（に）げる途中（とちゅう）で盗賊（とうぞく）たちから拝借（はいしゃく）してきちゃった」

　いたずらっぽく笑（わら）うカガリに、僕（ぼく）はやっと緊張（きんちょう）の糸（いと）が解（と）けたような気（き）がした。

「それじゃ、泉（いずみ）まで行（い）こうか。二人とも乗（の）って乗（の）って！」

　カガリの言葉（ことば）に促（うなが）され、僕達は荷車（にぐるま）に乗（の）り込（こ）んだ。

「よし、出発（しゅっぱつ）進行（しんこう）でござる！」

　何故（なぜ）か灯花（とうか）が仕切（しき）っているが、それを誰（だれ）も指摘（してき）することなく馬（うま）は進（すす）みだした。