第百七十話 民間人に見送られる時

「それは良かったのですが、あの異形は一体……あれも異星人の戦力なのですか?」

「いいえ、あの異形と異星人が交戦している記録がありますのでそれは無いと思います。

仮に敵対しているのだとしても態々地球まで来て偵察員を狙って交戦する理由はありませんから」

「と言う事はつまり、異星人とは異なる侵略者と言う訳ですか?」

「現状では私達はそう考えています、ですが星間連合とは異なりあの異形が何を考えて行動しているのかは現時点でははっきりしておらず、遭遇も偶発的なものです」

「偶発的にしか遭遇していない?どういう事です?」

「現状あの異形が何らかの意図を以て破壊活動を行っているのは確認出来ていません、その行動は兵士というよりも猛獣に近い印象です」


職員から異形についての疑問が出てくると友香と亜矢は現時点で判明している事について説明する。

するとそれを聞いていた夫婦も


「何れにしろ私達の生活を脅かす存在である事には変わりないのでしょう……」


とその会話の内容に不安を感じずには居られなかったのか表情が曇って行く。


「ええ、残念ながら……だからこそ最低限身を守る手段は用意しておかなければならないのです」

「今の遭遇で否が応でも実感させられましたよそれは……」


友香が神妙な表情で答えると男性は辛うじて保っている理性を絞り出しているような声でこう呟く。

その両手はまだ震えており、急変した環境に未だ心理が追いついて居ない事が伺える。


「何も徴兵しようと言う訳ではありません、そこは誤解しないで下さいね。

ただ、私達も常に防衛戦力を提供して居られるとは限らないのです、故に自衛能力を持って頂かなくてはなりません」

「しかし、持ったからさっさと……と言う訳でもありませんよ、僕達は貴方達を守りますから」


男性の心理を慮ったのか、友香と亜矢の言葉は現実を捉えているものの、口調と音程は比較的穏やかなものであった。

それを聞いた夫婦の顔は少し安らいだ物になり、その発言に安心した事が伺える。


「さて、何時までも此処で長居している訳には行きませんね、あの異形が出現した以上報告の責務がありますので」


亜矢がそう言ってその場から離れていこうとすると夫婦の男性は


「あ、あの……」


と声をかけてくる。


「?まだなにかあるのですか?」


亜矢が男性に問いかけると男性は


「今回は助けて頂き本当にありがとうございました!!」


と言って二人に頭を下げ、その様子に男性の妻も続けて頭を下げる。

それに釣られたのか職員も同様の行動を取る。

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