第5話 孤独の杜⑤
木の葉は密度を増して無数の葉が互いに摩擦し続けていたが、存在感は一枚たりともトビヒ族から消え失せていた。
「
瑚子と
「
「
李の長と黄の長が互いに向き合うところで、光沢のない
子どもと男女、下男の数は二族とも、
ただし瑚子は日本人として育ったので、現地の美的感覚とは十歳前後の誤差がある。
下男は子どもが纏うファストファッションよりも傷んだ生地で
子どもは子どもと。夫はそれぞれ妻を持つ男と。比較的若い妻は年代が近く、族長以外の夫を持つ女と。族長の妻は同じ
下男は年代別で集まり睨み合っていた。従者ゆえに声量を抑えていたが、瑚子が聞き耳を立てると人間の世界では公開できない過激な暴言だった。
子どもが聞いているかもしれない距離で堂々とした発言は、瑚子が生まれ育った街では受け入れられない習慣だった。
瑚子がトビヒ族として覚醒するまで、瑚子自身が両親に守られ穏やかに過ごせていたことを痛感した。
また瑚子の予想した成人トビヒ族の年齢が一体も当たっていなかったことも驚くべき事実だった。少なくとも瑚子が育った周辺では年代ごとに取り入れる流行や身なりにはっきりとした区別があり、誰もが自分を良く見せようとしていたからだ。
三つ巴の口論は激化して、瑚子は一瞬にして蚊帳の外となったが、風が鎮まった木が一本だけあった。
その木に隠れていたトビヒ族は三つ巴に参加せず、どのトビヒ族とも目を合わせず沈黙を通していた。
そのトビヒ族の存在感を、瑚子以外の同胞は一体も気付いていなかった。
「へぇ、別格のトビヒ族も
瑚子は自分の両耳を手で塞ぎ、自らの力を足裏から微量ずつ放出した。どのトビヒ族にも察知させず地中を這わせて、瑚子のパーソナル・ディスタンス内のみ、砂粒の音すら消えた。
瑚子が放出した力は、瑚子と利矢が着地した地点よりも外側へ向かいながら枝分かれした。
枝先が別の気を察知すると、枝先が元の二本に集結して地上を目指した。
神跳草の根に触れると、二本の神跳草が一本の足を交互に叩き始めた。
瑚子が両耳から手を離すと、三族の頭上を彷徨う風が無数の木の葉に撃ち落とされた。
「神跳草が騒いでおる。人間が侵入してくるぞ!」
三族が別のことで騒ぎ立てる中、右のえくぼが浮かんだトビヒ族が一体。
——ただし、瑚子ではない。
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