エマーソンの忠告



「まあ、顧問と言っても、時々こうして彼女の様子を覗きに来るだけで、特に何かをするわけではないのだけどね。アベルくんこそ、どうしてこんなところに?」


「別に。たいした理由はない。少しばかりこの部屋にいる女と約束があってな」


「……そうか。アベルくんは彼女、ノエルに気に入られたんだね。せっかくだから彼女について少し話しておくことにするよ」



 それから。

エマーソンは暫くの間、ノエルのことを語り始めた。


 曰く。

 ノエルは学園長の推薦によって入学を遂げた、特別な生徒で、一年生ながらにして『授業免除』の権利を与えられた唯一の存在らしい。


 ノエルの能力は既に大半の教師陣を超えてしまっているので、彼女のレベルに合わせた授業を行うことは実質的に不可能であった。


 そういう事情もあって学園側はノエルに対して、希少な書物を集めた『秘密図書館』を特別に貸し出して、『自習』させているのだという。



「圧倒的な才能というものは時に他者を遠ざける。おそらく彼女はずっと自分と対等なレベルの友人を欲していたのだろうね」



 なるほど。エマーソンの言葉にも一理ある。

 だからこそ彼女は自作した『迷宮回路』を使って、俺の実力を図ろうとしたのだろう。



「ふふふ。もちろんボクはアベルくんの実力がノエルと同等でないことくらいは知っているよ。どうだろう。ボクの力があれば、キミにも特別に授業免除の権利を――」


「不要だ。俺の目的はあくまで平穏な学園生活を送ることだけだからな」


 

 エマーソンの提案を突っぱねた俺は、ノエルの待っている研究室の中に向かう。


 たしかに授業免除の権利は魅力的であるが、このエマーソンという男は信用ならない。

 授業免除の権利を得るために、この男に貸しを作ってしまうと余計に面倒なことになる気がする。



「――アベルくん。キミは知らないんだね。彼女に関わってしまった時点でキミの望む平穏なんて絶対に訪れることはないんだよ」



 俺が研究室に足を踏み入れると、去り際にエマーソンはそんな意味深な言葉を残すのだった。


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