勘違い
「……なるほど。そんなことがあったのですか」
エリザの旺盛な食欲が減退するのも頷ける。
彼女が同じクラスのアベルという少年に好意を抱いていることは、朧気ながらも気付いていたことであった。
「ねえ。ユカリ……。やっぱりアベルとリリス先生って付き合っているのかな?」
そう言って尋ねるエリザの眼には、拭いきれない悲しみの色が隠されていた。
これ以上、友達の不安な顔を見たくはない。
そう考えたユカリは早々にエリザの前でネタバラシをすることにした。
「大丈夫です! エリちゃんの心配には及びませんよ! だって、アベルくんとリリス先生は血の繋がった姉弟(きょうだい)なのですから!」
「…………はい?」
混乱のあまり頭が上手く回らない。
衝撃の情報を知らされたエリザの頭の上には、特大のクエッションマークが浮かぶことになった。
「あ! やっぱり知らなかったのですね。わたしたち1年生の間では割と有名な話らしいですよ。色々な意味で目立つ2人ですからねえ」
「で、でもそれっておかしくない? 血の繋がった姉弟なのに……2人で夜に部屋の中で会って、キキキ、キスをしていたっていうわけ?」
実際に現場を目にしていたエリザは釈然としない想いを抱いていた。
あの日の夜、2人が交わしたキスは、どう考えても家族同士でするようなライトなものではなかったような気がする。
「う~ん。そこは家庭の事情によりけりだとは思うのですが、仲の良い家族であれば、キスくらいフツーにするものじゃないでしょうか?」
この時、ユカリは1つ勘違いをしていた。
具体的には、エリザの語る『キス』は精々、頬に軽く唇を付ける程度のものなのだろう、と考えていた。
だが、実際は違った。
ユカリの中には、まさか血の繋がった姉弟同士が男女の仲になるはずがないだろう、という先入観が存在していたのである。
(そうよね……。家族同士ならキスくらい別にしたっておかしくないわよね!)
だがしかし。
もちろんエリザにとっては、そんなユカリの勘違いは知る由もないことである。
2人が兄妹だということを知ったエリザは、すっかりと以前までの元気を取り戻していた。
「えへへ。安心したら急にお腹が減ってきちゃったわ」
「良かったらわたしのケーキ食べますか? たくさん食べると思って、エリちゃんの分も注文しておいたのです」
「本当!? 良いの!?」
大好物のケーキを食べられることを知ったエリザは、キラキラと目を輝かせていく。
「今日はとことん食べましょう! エリちゃんは、この店のケーキどの味がオススメですか?」
「ううーん。難しい質問ね。アタシ的には断然イチゴがオススメなのだけど、評判が良いのはチョコ系っぽいのよね。マスター曰く、今月は――」
何時になく真剣な表情でオススメのケーキについて語るエリザ。
結局、大好物のケーキを平らげた頃には、すっかりとエリザは元気を取り戻していた。
(エリちゃん……。ファイトですよ!)
叶うことならエリザの恋が成就する瞬間を見届けてみたい。
今回の一件を通じてユカリは、エリザの恋を陰から見守る決意をするのだった。
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