AMO



「ねえ。キミ、もしかしてテッド君と一緒にいた……」



 俺が怪しい団体を観察していると背後から声をかけられた。


 ふうむ。

 この男はたしか以前にテッドをスポーツ系の研究会に誘おうとしていた奴だな。


 名前はたしかセガールとか言ったか。



「先程はウチの部の主将がすまなかったね。改めて謝罪させて欲しい」


「いえ。その件については大丈夫です。この眼のせいで、他人から差別を受けることは慣れていますので」



 今更説明するまでもなく、200年前の時代において、俺の持つ琥珀眼は差別と迫害の象徴であった。


 現代において琥珀眼は無能の象徴とされて、嘲笑されているようであるが、過去に受けてきた理不尽な仕打ちと比べると生温いものである。



「これ、ウチの部で配っているスポーツドリンクなのだけど……。良かったら、謝罪の印にどうかな」



 そう言ってセガールは、鞄の中からボトルを取り出した。

 限りなく水に近い色をしたその飲み物は、今までに見たことのないタイプのものであった。



「受け取っておきます。気を使って頂きありがとうございます」



 なるほど。

 先程の傲慢を絵に描いた『主将』とは異なり、このセガールという男はなかなか礼節を弁えているようだ。



「あの。さっきから気になっていたのですが、そこにいる妙な格好をした連中は何なのですか?」


「あー。AMOの連中だよね。最近では学園にまで拠点を作ったみたいだ。本当に迷惑な奴らだよ」


「AMO?」


「アンチ・マジカル・オーガニゼーション。全国でもトップクラスの規模持つ反魔術組織の略称さ。表向きには『戦争反対』『平和主義』を唱えているのだけど、やることがいちいち過激でさ。近年では深刻な社会問題にもなっているんだよ」



 ふうむ。知らなかった。

 俺が知らない間にそんな組織が世間にのさばっていたのだな。


 俺が以前住んでいたランゴバルト領は辺境の片田舎に存在していたため、世間の情報が入り辛い環境にあったのである。



「ところで、アベル君。キミはもう所属する研究会を決めたのかい?」


「いいえ。実を言うとまだ決めかねています。魔術系の研究会に絞って探しているのですが、正直どこも物足りなく感じてしまって」



 俺の言いたいことを察したのかセガールは苦い笑みを零す。



「そうだろうね。キミほどの実力者ともなると自分のレベルにマッチした場所を探すのにも苦労しそうだ。正直、ウチの学園にキミが満足できるような研究会は……」



 そこまで言ったところでセガールは、何かを閃いたかのような様子で顔を上げる。



「いや、そうか。1つだけあるかもしれない。ついてきて。面白いものが見られるかもしれないよ」



 なるほど。

 どうやらセガールには何か心当たりがあるらしい。


 元々、俺は学園に関する情報には無関心だったので、こういう時に頼れる存在がいるのは有難い。


 そういうわけで俺はセガールの勧める研究会を覗いてみることにした。


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