3章

トレーニングルームでの出来事

 俺こと、アベルは200年前から転生してきた魔術師である。

 以前に暮らしていた世界では、俺の琥珀色の目は差別の象徴だった。


 そんな時代に辟易した俺は、理想の世界を求めて200年先の未来に転生した。


 さて。転生後の生活は、概ね、平和だ。

 ひょんなことから国内有数の魔術校、アースリア魔術学園に通うことになった俺は、今日も今日とて代り映えのない日常を送っている。



「なあ。あの一年、一体どのくらい走っているんだ?」


「信じられねえ……。たぶん一時間くらい前からずっとだろ……」



 今現在、俺が何をしているのかというと日課となっている体力トレーニングである。


 どうやら現代の魔術師は体力トレーニングをおろそかにする傾向があるらしい。


 せっかくの休日だというのに学園地下に設立されたトレーニングルームは、何時も通りにガラガラだった。


 はあ。

 宝の持ち腐れとはまさにこのことだな。


 この学園は、各種設備が充実しているのだが、当の学生たちはいまひとつそれを活用していないような気がする。


 せっかく10台も用意されているランニングマシーンなのだが、同時に3台以上稼働するところを見たことがない。


 まあ、そのおかげで俺が自分のトレーニングに専念できている部分もあるのだから、悪いことばかりではないのだけどな。



「うおおおお! 師匠発見! 探したんすよ~!」



 俺がそんなことを考えていると、どこからともなく馴染みのある声が聞こえてくる。


 コイツの名前はテッドという。

 焦げた飴色の金髪と筋肉質な体つきが特徴的な男である。


 ちなみに俺はテッドのことを弟子にしたつもりは毛頭ない。

 何の因果か幼少期にコイツのことを助けて以降、『師匠』と呼ばれて、付き纏われるハメになってしまったのである。



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