良質な玩具

「ふふふ。こちらの目的を理解して、女の方を先に逃がしたのね。ワタシ、頭の良い子は好きよ」



 まず1人目、どこからともなく、景色の中から浮かび上がってきたのは、身長170センチくらいの女だった。


 眼の色は灰。


 ふむ。

 灰眼の魔術を使って、自分の体色を周囲の景色と同化させていたのか。


 裸同然の格好をしているのは、魔術の精度を少しでも上げようという彼女なりの工夫なのだろう。


 同じような魔術に見えて、服の色を変化させるのは黒眼系統の領域だからな。


 得意系統以外の魔術では、どうしても粗が出やすくなってしまうのである。



「カァー! いよいよオレもヤキが回ったか! こんなガキに気配を悟られることになるとはねえ!」



 次に2人目、木の枝に足をかけて、上下逆さの状態で登場したのは、30代半ばの中年男だった。



 眼の色は緑。



 風属性の魔術を得意とする魔術師だな。


 男が身に纏っていたのは、東の島国で伝統的に用いられている『忍装束』によく似たものである。


 碧眼の魔術師は風属性の魔術を利用して、自身のスピードを強化することを得意としている。


 尾行の方法から察するに、この男もオーソドックスな戦い方をする碧眼の魔術師の可能性が高いだろう。



「流石はアイツが認めるだけのことはあるはね。なかなか興味深い逸材だわ」


「勘弁してくれよ。その若さで、オレたちの尾行に気付くとは、とんだ化物が現れたもんだぜ」



 1つ、分かったことがある。

 会話の内容から察するに、この2人は自分の意思ではなく、誰かの依頼によって俺の元に近づいてきたのだろう。


 まあ、依頼主の正体については薄々と気付いてはいるのだが、答え合わせのつもりで聞いておくとするか。



「お前たちの依頼主は誰だ? 何が目的で俺の監視を指示している?」



 俺が尋ねると、忍装束を着た中年の男は僅かに口角を釣り上げる。



「悪いな、坊主。これでもオレたちはプロなんでな。依頼人の名前は死んでも割る事ができねえんだわ」


「そうか」



 それは俺としても好都合な返事だ。

 ここでアッサリと口を割るようでは俺としても張り合い甲斐がない。



「んじゃ、坊主。気の毒だが、お前にはここで死んでもらうぜ」


「こんな可愛い子がターゲットなんて……。ゾクゾクしちゃう」



 2人の刺客たちは、それぞれ魔道具を手に取ると臨戦態勢に入る。


 ふう。

 それにしても本当に不憫な連中である。


 この世界に転生してからの俺は、暫く本気で戦うことができないでいたので、フラストレーションが溜まっていたのだ。


 俺にとっては200年振りに見つけることができた『良質な玩具』だからな。


 悪いが、今日の俺は全く手加減ができる気がしない。

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