19. 聖戦
この村には伝統的な唄がある。
裁定の日が訪れると、神と名乗る男は醜さで溢れたこの世界を新しくするのだという。
生きる物を全て消し去り、文明の遺産も全て消し、新たに自らの手で全てを創り出す。
「大きな争いが起きるのは何故か、その火種は常日頃あらゆる場所に溢れている」
「常識こそが、最も争いを助長させる火種なのだ」
そうして男しかいない世界には文明が生まれ、やがて男の呼称は神となる。
名実共に、新しい世界の神となる。
「君たちはこの村の風習を到底受け入れられないと感じただろう。その認識の違いこそが争いを産むのだ」
「人種や思想を統一してしまえば、大部分の争いは消えてなくなる。残る火種は...私にとっては燃えカスのようなものだな」
途端、教会の屋根が不自然に剥がれていくのに気づく。そしてそれは壁を含めた建物全体へと伝搬し...全て消えていった。
「気づいてる? 自分の言ってることがただの人形遊びだって」
僕は景色の急激な変化に臆することなく、神父に向かってそう言う。でもそれは虚勢に過ぎない。外見だけ取り繕えても、頭では目の前の絶対的存在に怯えていた。
『創造』という万能の力、それは果たして僕の想像できる範疇に収まるような力なのか?
圧倒的未知数の力、想像以上が一番恐ろしい。
「人形遊び? 失敬な」
「その気になればベンを使ってお前を殺すことも出来た、だが私はそれをしなかった。それが答えなんじゃないのかね?」
神父は僕のことを指差す。
曇天模様だった空は澄み渡る夜空へと変わっており、様々な輝きを放つ星々が夜空を照らしていた。
「さぁ、新世界を創り出そう」
「そのためにまずは邪魔者を殺さなければいけない。現人神の契約者よ、お前は私の世界には不要だ」
僕は、ふと空を見上げた。
偶然なのか、流星が空を駆けていく。生まれてから一度も見たことがない光景、だけど僕が見ているのはソレではなかった。
「アレは...星...?」
星が、落ちている。
こちらを目掛けて、向かってきている。
「なんだよアレは...!」
「規格外だよ...。その気になれば惑星すら創れるんじゃないか...?」
イリスやベンはその事実に戦き、リズは声にならない様子で立ちすくんでいる。かく言う僕も酷く動揺していた。本物の神の如き力を目の当たりにして、正気でいられるわけがない。
凄く惨めだ...。
身体が震えて...仕方ない...。
「落ち着いて。取り敢えず深呼吸しようか、少年」
イリスは僕の肩に手を置きそう言う。
僕はこんな状況にも関わらずイリスの指示に従い、深く息を吸い吐き出した。混乱していた頭が多少落ち着き、身体の震えも収まる。
「さっきは多少驚いたけど、あの神を倒す方法は必ずある。というより、君ならあの偽神を打ち破れる」
「あの力は一見絶対的に見えるかもしれない。でもあの男は、君やメアリー・スーと戦うのを避けていた節がある」
「力を複数持つ君たちなら、『契約』の力を持つ君たちなら...必ず倒せる」
僕の肩に置かれている手に力が入る。イリスだって怖いはずなんだ、だけど勇気を振り絞って状況を分析してる。
「自分のことを神だって言うけど、アンタはただの人間、ニセモノの神だよ」
僕は目の前の偽神に向かってそう言う。
「...なぜそう思う?」
「ホンモノの神は運命すら捻じ曲げられるんだ。アンタがそうなら、僕と戦うことなんてなかったんじゃない?」
なにより、僕には分かるんだ。
アンタが本当の神じゃないって。
「だって僕は、神様から殺し方を授かった人間だからね」
偽神は吹き出したように笑う。
「あぁ、ああ! 面白くなってきた!」
「互いが信じる神のために戦う...! これは聖戦だ!」
「お前の全てを否定したい! お前を殺し、信じる神とやらの存在を思う存分嘲笑いたい!」
だから僕は、
「だから私は、」
コイツを/「お前を」
殺したい/「殺したい」
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