12. 支度
「いやぁ〜おまたせ。御老人との語らいはなかなかに有意義な時間だった」
イリスは意気揚々と扉を開ける。
「結局リズは風邪じゃなかったみたいだ、僕が勘違いしてた」
「だからあんなに違うって言ったのに...。気を使いすぎてて逆に気持ち悪かった」
「はは、散々な言われようじゃないかキミィ。女の子は繊細なんだから、もっと丁重に接しないとダメだろ?」
リズに人肉を食べさせてはいけないと感じ、僕は無理を押し通して未知を平らげた。
その際リズに不審がられ、イリスには仕返しと言わんばかりの言葉を浴びせられた。苦労人というのはこういうものなんだろうか、その言葉の意味を理解した気がする。
「そういえばお風呂も使っていいんだって、御老人がそう言ってたよ」
「私の発する言葉は人を動かす力があるらしい...つくづく思うよ...。やっぱりこう...知性溢れる美しい女性が含蓄のある言葉を言ったら、人はその言葉に感化されてしまうものなんだ...」
「いや、早口で言い訳並べても無駄。アレは普通につまらなかったし、なんなら私は不快に思った」
「...」
この村は明らかに異質な存在だ。
ただ、今はあの老人がおかしいのか村全体がおかしいのかが分からない。慎重に見定めないと。
「僕は後で入ることにするよ。やりたいことがあるんだ」
「そ、じゃあ行こっか」
そう言ってリズは強引にイリスを連れて部屋を出ていく。
さ、色々と準備するものもあるし、早めに終わらせてしまおう。
「いいお湯だった〜」
完全に間の抜けた声になっているリズ、二人は濡れた髪のまま部屋へと入ってきた。
「なんだか物騒なものを並べてるね、それがやりたいことってやつ?」
「そうだよ。『刃』の力で作った刃物を体中に巻きつけるんだ、もしもの時の為にね」
刃物の他に、『契約』で使う代償なども用意しておいた。こういうのは慎重すぎるくらいがちょうどいい。
「いつもの事だけど物騒だねぇ〜。リズ、おいで、髪編んであげる」
イリスはリズの髪を丁寧に編み込んでいく。彼女の銀色の髪は艶やかに輝いていた。
「相変わらず綺麗な髪だねぇ。サラサラしてて羨ましい限りだよ全く」
「君みたいな子でも路上生活を強いられるんだ、改めてあの国は異常だと感じたね」
溜息をつきながらも、イリスはなおも丁寧に髪を編み込んでいった。
リズが静かに眠ったあと、僕とイリスはこの村について話していた。
「人肉なんて久しぶりに食べたなぁ。というか、よく乗り切ってくれたね」
「毒味をしてくれたおかげだよ。それに、リズが土壇場で気を利かしてくれた。無自覚にだけど」
匙を二回動かすのは「異常アリ」の合図、あらかじめイリスが教えてくれなければ、なんの疑問もなくアレを食していただろう。
あの場面、正直リズの気まぐれで助かったようなものだ。後でリズに感謝しておかないと。
「この村、結構なモノを抱えてそうだね」
「私の網もこの村や国の現状を把握しきれてない、知識を更新する間に何が起こっていたのかは...気になるところではあるね」
あの老人が何らかの意図を持って人肉を差し出したとは思えない。むしろ、文明として根付いている気さえした。
「とりあえずこの村では大人しくしていよう。明日は予定通り、バルティアへ向かう」
...本当に居るんだろうね?
「私の知識に間違いなんてないさ」
『創造』の転移者は、必ずこの国のどこかにいる。
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