第39話
カウンターへ全ての本を置き、そしてバーコードの読み取りが終わるころに司書に話しかけた。
「あの、この本、分類番号も何もなくて、誰かのが紛れ込んでしまったみたいなんですけど」
そう言って、一反木綿が挟まれた本を差し出す。司書は「あら?」と言いながらその本を確認ていく。番号もなくパソコンで題名を検索して調べたのだが、やはりヒットしない。
「困ったわね」
「もしよかったら、〈妖研〉の部室に置いてもいいですか?」
そう尋ねると司書は俺の顔を見て妙に納得した顔をする。その納得はもしや俺が妖怪じみた顔をしているという意味なのか、一体どういう意味だと言いたかったのであるが、押しとどめて俺は平静を装った。
すると、やっと気を取り直した一反木綿が、ひょこっと浮き上がってきて首元にストールのように巻き付いてきた。
『せや、ねーちゃん。すぐさまにでもわしを解放してくれ!』
聞こえないって言っていたのは、どこぞの妖怪だと悪態を胸中で吐いてから、司書の方を見ると、困ったなと首をかしげながらパソコンと本を見比べて、最終的には本を俺に渡した。
「そうね、図書館のじゃなさそうだから部室に持って行ってもいいわ。持ち主探しの張り紙しておくから、もし出てきたらその人に返してくれるかしら?」
「もちろんです。一時預かりで構いません」
持っていたところで何の役にも立たないし、とぼそっと付け加えるのを忘れずにお礼を言うと、司書はにこにこと笑った。
「その白いストール似合うわよ」
「はいいい?」
俺は首に巻き付いた一反木綿を摘まみ上げてまさかこれが?と目を見開いたのだが、「そんなに驚かないでもいいのに」とくすくす笑われてしまった。俺は呆然としてから、図書館を出た。
『あああっ、ええわあ、やっぱり外の空気は最高やわぁ』
まるで刑期を終えて、出所してきた犯罪者のような勢いの言葉を口にしながら、麻薬を吸っているのかと思うほど熱心に一反木綿が外の空気をすーはーすーはーした。
見ればいつの間にか鼻の穴の切れ目が現れて、それが息を吸う度に大きくなったり小さくなったりを繰り返していたのだが、そのうちに『あかん吸い過ぎて過呼吸や』と口元を押さえて今度はひいひいし始めた。俺は一反木綿の裾を引っ張って、口をどすこいと押さえつけてやった。
このまま家にこのガラガラだみ声の一反木綿を持ち帰るわけにもいかないので、俺は鍵を借りてから〈妖研〉の部室に行こうとしたのだが、すでに鍵は借りられた後だという。
つまりそれは、誰かが借りたということであって、そしてそれは現在部員二名ということから想像できることはただ一つ。
「
面倒だなと思ってため息を吐くと、後ろからものすごい強い力で腕を掴まれて、俺はぎゃあ!と思わず叫び声を上げてしまったのであった。
「
「驚かせるなよ!」
驚かせるつもりはなかったわよと言って、それから俺の首に巻き付いた一反木綿型ストール、いや、ストール型一反木綿を目をぱちくりさせながら見つめた。
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