特別編 魔法使いとの出会いは新たな物語への入り口である。
*作者コメント*
知らない人や忘れている人が多数ですが、これで一応終わりです。。
準備中の作品の為に、ちょっとオマケで組み込んでみました。
予定はまだまだ未定のラインですが(汗)。
──────────────
あの日以降、この日常を大事にしようと思った。
それ以前は義務だと疑いもなく戦ってきたが、妹の件、異能誕生の意味、そして俺の異能。
色々とあり過ぎた所為だろう。耐え切れなくなって、逃げるように異能者としての仕事を放棄してしまった。
休暇扱いだが、ほぼ引退に片足突っ込んでいる状態だ。
ちなみに両親は反対しなかった。
寧ろ母親は大賛成で大喜びして、妹の面倒も最近は俺に任せる事が増えていた。あと祖父や父は負い目があるのか、口出しは一切なかった。
周りの人間も残念そうにしながらも反発の声は起きなかったが、英次だけは一年経った今でも戻ってこないかと言ってくる。その度に断っているが、外を見張っているアイツの苦労を思うと少し申し訳ない気持ちにはなる。
幼馴染の凪は俺の気持ちを汲み取ってくれた。
やや悪戯度が増して変な趣味まで始めているが、昔にはなかった新鮮な気持ちなって、ついつい俺も付き合っていた。色々と犠牲になった気もするが。
春、夏、秋、そして冬と続いて……二年のクリスマス時期がやってきた。
一年前の悲惨なクリスマスを招いて反省した俺は、今年は挽回しようと学校のイベントにも積極的に参加。持ち前のスキルをフルに使って盛り上げていった。
色々と驚かれる事が多々あったが、無事にイベントを乗り越えて、束の間の休息を取っていたところ……。
「葵ちゃんがナンパされてるって……」
俺の平和を脅かす不届き者が現れたらしい。妹に手を出すとは……ブチコロス。
由香さんから連絡を受けて修羅となった俺は現場へ急行した。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! まずは話を──」
「死に晒せ」
「ゲブっ!?」
そこは街中の神社の敷地。『扉の鍵』が封印されている場所だ。
よりにもよって異能者にとって意味のある場所だが、そこまで大男は妹の葵を連れて来たらしい。
心配になって尾行していた凪からの報告で知った。唖然としていた葵も彼女に任せて此処から離してある。あとは……。
「っ……少しは加減を」
「しない。普通じゃないんだろう?」
「っ!」
殴った感触で分かった。
ただのナンパ野郎じゃない。こいつは超人だ。
何が目的か知らないが、こんな場所まで妹を連れ込んだ罪は……重い!
「フッ!」
「ガッ!?」
最低限の加減での回し蹴りを叩き込む。
普通なら骨や臓器まで逝っているが、感触がまるで鋼だ。胸金というやつか、男はそのまま背後の木まで吹っ飛んだが……。
「誰だ、お前ら」
蹴り飛ばした男以外、木陰に隠れていた男へ向けて問いかける。
「へぇ、気付いていたのか」
男は隠す気がないのか堂々とした感じで出て来る。
二人とも見た目は黒髪の日本人男性に見えるが、不思議な感じがする。異能者特有の強い心力は感じないが、特に出て来た青年からは異質な気配が……。
「何度も会っているが……『死神』のレイ、ようやく会えたな」
「何? ──!」
嬉しそうに言うと男は……消えた。
いや、瞬速で至近距離まで急接近すると、鋭い手刀を繰り出して来た。
「──っ」
最近戦っていないからギリギリだったが、どうにか反応して手刀を腕でガード。
ミシッと骨に痛むが、腕でその手刀を払うと男へ向かって蹴りを放つ。
男は器用に体を逸らして躱す。蹴り返して俺が避けたのを見ると小さく笑った。
「ふっ、鈍っていると聞いたが、そうでもないか」
「……誰にだ」
「──君だ」
今度は拳を連打。容赦なく俺の顔面を打ち抜こうとして来る。まともに当たれば鍛えた骨が砕ける。
「理解も早い。この拳の危険度が分かるな」
「本当に……何者なんだ」
咄嗟に払ったり避けたが、この拳……相当抑えられている。
「何故手加減する? 葵をこの場所まで呼んで何をするつもりだった?」
「ちょっと協力を求めただけだ。君も呼び寄せれたし、もう用はないよ」
さらに蹴り技も混ぜて来る。
特に身体強化もせず俺は避けるかガードするしかなく、次第に追い詰められて……。
「もっと本気を出そうか?」
腕を取られた──と思っていたら倒れていた。
速過ぎて全く反応ができなかった。
「なっ!?」
「素の反応じゃ遅すぎる。いつまでそうしているつもりだ?」
試すように男は言って、押さえられた腕の関節がミキミキッと悲鳴を上げる。このままだと……
「もっと本気を出せよ『死神君』?」
男は楽しそうに関節を徐々に曲げる。加減を分かっている者の動きだ。ヘタに抵抗すると逆に折れてしまうが……。
「それとも、また妹さんを捕まえたら考えも変わr───」
「──黙れ塵が」
言い切る前に男の周りに闇が……いや、黒が染まった。
俺の異能【黒夜】が久々に火を吹いた。
「いやぁー……危なかった」
だが、その瞬間、背後を取っていた男の存在が消滅する。
一瞬で俺の攻撃範囲の外まで回避しており、笑みを浮かべてこちらを捉えていた。
「調子に乗るなよ? 名無しが」
「迷いは消えたか? ならオレももう少し本気で行こうか」
始まるは『死神』対『謎の魔法使い』の激突。
そして、それが歪な運命を背負っている両者の邂逅でもあった。
その日、街の異能者のみに不可思議な現象が起きた。
前振りもなく突然背筋を震わせる者。
唐突に襲い掛かる恐怖から発狂してしまう者。
精神を切り裂くような殺意を受けて気絶する者。
意外なことに異能者以外の一般人には一切影響はなく、真夏でもないのに倒れている人の多さから、何かウイルスでも蔓延しているかと少し騒ぎにはなった。
神社の付近でそういった現象が多発。調べようとした異能者も信じ難い異常な恐怖から、それ以上踏み込むことが出来ずその異常な現象が止むまでジッとしているしかなかった。
ただし、特殊な眼を持っている異能者に限り、それがとんでもない事なのだと嫌でも理解してしまう。
零の友人である英次は、視えてくる光景にゾッと背筋が凍り付いた。
【真っ黒な鎌を携えた死神】
【ローブを羽織った顔の見えない魔法使い】
どちらも笑っているようで、心底楽しそうに神社の中で暴れ回っていた。
「今にして思うと、相当罰当たりだったな。もしかして俺の苦労人生ってそれも原因か? 今度お祓いに行くべきか……」
「ちょ、ちょっと? 勉強教えてる最中によそ見しないでよー!」
どうも高校生の泉零です。
暇潰しにスマホで昔のクリスマスの写真を見ていたら、ふとあの時の事を思い出す。正確な日にちは少しズレているが、ちょうどその頃は俺も一般人と異能者の間に迷っていた。
「教えてるのは俺だ。白石が全然進まないから仕方ないだろ?」
「ぐぅ……これだから優等生は」
「補習がイヤだって泣き付いた奴のセリフじゃないな」
同じ異能者だが、こんなにも残念なキャラはそういない。
まさか無惨な補習の所為で、異能者の仕事やもう時期あるクリスマスのイベントにも参加出来ないとは……。
「まぁ俺だけで十分だけど、パーティーもお前の分まで楽しんでやるよ」
「諦めないでよぉぉぉ!」
本当に異能機関のルーキーか?
涙目で縋って来る娘を前に、俺は溜息を小さく零す。……見捨てるのは忍びないか。
「はぁ、ちょっと飲み物買って来るから、少しは自分で進めてみろ」
「うっー……」
いや、唸られても……。
しょうがないので白石の分も買うか、と苦笑いしながら教室を出る。
一階にしかない自動販売機まで行って……少し困った。
「アイツって何が好きなんだ?」
奢ろうと思った相手の好きなドリンクは分からない。
お茶かお水で済ませるのはなんか可哀想だし……。
「気分転換に強めの炭酸か変わりものにしてみるか?」
と銭を入れたが───。
「オレの分もいいかな? 『死神』のレイ」
気配が突然背後から出現した。
普通ならビックリだが、この気配に覚えがある。
少し跳ね上がった心拍が一秒もせず落ち着いたところで、ゆっくりと背後へ振り返った。
「ジークさん」
「久しぶりだね」
「そうですね」
強めの炭酸にした。白石はゴーヤジュースにしてあげる。……なんであるんだろ?
炭酸を取り出すと、こっちの世界に合わせた私服の彼に渡した。
「炭酸イケますか?」
「ありがとう。……驚かないのか?」
「神様にいちいち驚いても……」
どうしろと、と首を傾げて言うとジークさんは笑いながら炭酸の缶を開ける。
咳き込むかと思ったが、平気そうな顔で炭酸を飲んでいた。
「また悩み相談ですか? 俺の方は経験低いんで力になれるか」
「いや、そうじゃない。今回は悩みというかお願いがあるんだ」
笑みはすぐに消えて、真剣な表情で彼は頼み込んでくる。
「『死神』……【冥王神のチカラ】を持っている君の力を貸してくれないか?」
それが後に始まる【神々の戦い】に繋がるとは、いくら俺でもその時点はまだ気付ける筈もなかった。
そして物語は───『????? 破滅の序章』へ続く。
*作者コメント*
今回のはオリマスのジークと苦労人の零との出会いの話で短編風にしました。
前回夢の話を出しましたが、それはそれとして予定よりも全然短くても出してみる事にしました。
本格的な戦闘シーンは短いですが、個人的な満足でした。
来年予定のオールメンバーの物語への伏線も加えたので、これで一旦『苦労人』は完結扱いにします。
機会があれば『高校編』も検討しますが、余裕が全くないのでそちらは……忘れましょう(苦笑)。
こっそり守る苦労人 〜黒き死神の心〜 ルド @Urudo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます