第17話 しっとの炎
★★★(北條雄二)
俺は優子に背負われて宙に浮かんでいるのだが。
優子がエフェクト「ディメンジョンゲート」を使ったため。
今、眼下の浜辺はえらいことになってる。
空間に穴が開き、ものすごい量の水が噴き出していて、ほぼ洪水状態って言って問題ない。
……助けた人々は大丈夫だろうか!?
気になったんでちらりと見たが、水はそこまでは到達しない模様。
流れ方で見ても、全然大丈夫そうだ。
良かった。
……しかし。
俺は今、ドキドキ、いや、ムラムラしてる。
さっき優子に「ゆーくん」なんて呼ばれかたした時もドキッとしてしまった。
普段、優子はそういう甘えた言い方はしないんだよな。
俺のことを褒めて、立てようとしてくれるけどさ。
甘えてしなだれかかるような態度、取らないから。
あくまで「さぁ、一緒に歩いていきましょう!」これなんだよ。
優子の恋人としての姿って。
「引っ張って」「守って」じゃないんだよね。
まぁ、そこが良いんだけど。
……ちょっと話がズレた。
まぁ、ドキっとしたけれど、なんでそういう呼び方したのか?その理由はなんとなく分かった。
……傍にファルスハーツの、ハヌマーンオーヴァード居るもんな。
支部のマシンジムで教えてもらったけど、ハヌマーンは地獄耳らしいから。
そんな状況で名前は話せんわ。当たり前。
じゃあコードネームは?って話だけど。
これはねぇ……俺、自分のコードネーム嫌いと言うか、恥ずかしいんだよね。
俺のコードネーム「
正直「やめてくれー!」って感じだ。
UGNの伝統だから、って言われたのと、優子が考えたからしぶしぶ受け入れたけど。
多分、肌で伝わってるんだろうなぁ……だから避けて、本名を甘えた感じにぼやかす方向で調整したんだろう。
スマン。気を遣わせてしまって。
慣れるべきだよな?それが、仕事ってもんだろうし。
でも、やっぱり普段そういう甘えた呼び方されないから。
どうしてもドキドキしてしまった。
そういう願望あるのかね?俺自身、優子が甘えない女の子なのが気に入ってるはずなのに。
で、加えて。
……これはとても公言出来ないことだけど。
俺、普段自分でするときに、優子のことを想像してるんだよね……
いや、なんかさ。
彼女居るのに、他の女の子の絵をおかずにすると、それ、エア浮気なんじゃないのかな?と。
どうしても、気になってきて。
ある日、決断して全部捨てた。
バックアップも全部消去した。
代わりに、虎の子だったwebで見つけたエロ小説のヒロインの名前を全部「優子」に変えて、主人公の名前は俺にして、それを今使ってる。
とても優子には言えないけど。絶対引かれるし。
で、毎日1回、頭の中で排卵日の優子とセックスしている。
で、優子に脳内で「今日、危ない日だけど、雄二君ならいいよ」って言わせて、興奮してる。
俺の脳内、優子は毎日が危険日。
……うん。とても言えないね。優子、優しいけど絶対引かれる。
「ごめんなさい。マジ気持ち悪い」って言われる。
優子、スマン。俺、お前に隠し事してるんだ……。
そのせいで。
こうして優子に背負われて、宙に浮かんでいるこの状況。
普段が普段だから、すごくムラムラしてくる。
脳内でイメージを膨らませた彼女の身体が、今腕の中に。
そう思うと、もう。
それにさっき、布越しだけどキスまでされてしまったしなあ……
唇を「はむはむ」されたときは、一瞬暴走しそうになった。危なかった。
こんなところで行動起こすわけには絶対にいかないし。
やった時点で「はい全部終わり」だ。
それに戦闘中だしな。
それどころじゃない。
ここは耐えねば……!!
俺は、一般人を避難させている場所と、海の様子を集中して見張ることにした。
そっちに意識向けないと、マジヤバイ状況になってたので。
そうしていると。
ドシャ!!
何か大きなものが、落ちる音がしたんだ。
★★★(下村文人)
思わず食ってかかってしまったけど。
彼女、1年前の事をちゃんと覚えてて。
自分たちを破った相手だから、これぐらい大丈夫だろう。
そう思っていたわけか。
……そういう言い方されたなら、黙るしか無いか。
僕らの実力は信用していると、だから無茶をしたんだと。
分かったよ。
予告なしになった理由も、納得できないわけでもないしね。
確かに余裕は無かったと思う。
僕らは僕らで、二人の相談に没頭してたし。
……彼女は結果を出してくれた。
ここは、揉めている場合じゃない。
あいつを引きずり出せた。
そう。
この浜辺に地獄を齎そうとした、この怪物を。
僕は向き直った。
……見るからに醜悪な化け物だ。
赤ん坊に似ているというのが特に嫌悪感を覚える。
本来は愛されるはずのその存在が、怪物になっている。
水死体のようにぶよぶよした青白い皮膚を持ち、その両手足にぬめぬめしたセイウチかアシカのようなヒレをつけていて。
その眼。
人の眼に似ているが、無機質。
あれは烏賊の眼だ。
そして頭部。
由来はイソギンチャクか何かだろうか。
数多くの触手。
ぶよぶよし、伸び縮みし、先端に牙のある顎がある。
内二本、根元から食いちぎられていて、青白い体液を漏らしている。
……ギリギリだったんだな。やっぱり。
彼女の決断が正しかったと理解。
……了解。
さて、仕上げか。
僕の隣で徹子が最後の出撃準備を整え、身を低く構える。輝く両手を引っ提げて。
僕はスッと腰を落として、足元の砂から貝殻を数枚、両手で拾い上げた。
QUUUUUUUUUUA!!!
吠える怪物。
怒りを感じた。
本来は餌であるべき存在に、これから命を絶たれようとしている。
その理不尽に。
……悪いな。諦めてくれ。
邪魔なんだよ。お前。
吠え声と共に、化け物が頭の触手を総動員してこちらに喰い殺しにかかかって来た。
だが、無駄だ!!
徹子が飛び出す。超音速で。
同時に僕は貝殻を十字手裏剣に錬成し、それを投擲した。数個まとめて。
リリースするときに再錬成をかけ、その大きさを十数倍に拡大して。
徹子のレーザー手刀が閃き、化け物の両手足を切断する。
太い手足に対応するためだろう。いつもよりレーザー刃が長い。
レーザーブレードの二刀流になっている。
僕の投擲した巨大な十字手裏剣たちが、まとめて化け物の触手を全て刈り取った。
手裏剣と言うよりも、もはや円盤、いやマンホールの蓋と言っていい大きさ。
手裏剣たちは触手を何の抵抗も見せずにあっさりと刈り取る。
GAAAAAAAAA!!!
悲鳴を上げ、倒れ伏し、行動不能に陥る化け物。
手足を失い、触手を失い、もはや、文字通り、手も足も出ない。
「やれ!UGN!」
「とどめは任せたから!」
彼らを振り向き振り仰ぎ、僕らは声を飛ばした。
ちょうど、サラマンダーの彼が突っ込んでいくところだった。
その筋肉量から考えて、異常な速さで。
燃え上がる右腕を振り上げながら。
体重、相当あるはずだと思うのに。
……見れば、彼の後ろであのバロールの彼女が槍から球形に変えた魔眼を両手で握り、彼を見守っている。
合点がいった。
ああ、パートナーの体重を、重力制御でカットして、それで彼の素早さを上昇させているんだな。
ホント、息が合ってる。傍目に見ても最高のコンビだと思うよ。
彼のその目には、強い意志が感じられた。
その手に、全力を込める。この一撃で、必ず仕留めるという。
そして。
「しょう……かぁぁぁぁあぁ!!」
彼は雄々しく声をあげ、その燃え上がる拳を、化け物の眉間に叩き込んだ。
★★★(???)
なんでだ!?
なんでだよ!?
ぼくはここにごちそうを、おいしいごはんをたべにきただけなのに!!
なんで、ぼくのほうがやられるの!?
おかしいよ!!
まちがってるよ!!
ぼくはてもあしもしょくしゅもうしなって、なにもできない。
そこに、あのひときわおおきいごはんがつっこんできて、ぼくのあたまをなぐりつけた。
そのときの、そいつのめがぼくをこうちょくさせる。
いちげきでしとめる。そういうつよいおもいをかんじたから。
なぐりつけられたそのしゅんかん、ぼくのからだのたいえきがのこらずふっとうをはじめ、じょうはつ、そしてからだがはっかする!
あつい!!
あついあついあついあついあついあつい!!
いやだ!!あついよ!!
あつ……!!
……ぼくのいしきは……そこでとぎれた。
★★★(北條雄二)
GIAAAAAAAAAA……!!
海の魔物が断末魔の悲鳴を残して、動かなくなっていく。
全身から激しく炎をあげて、燃え尽きていく……。
……やれた。……倒せた。
俺は拳を突き出した姿勢のまま、全力でエフェクトを働かせた拳を見つめ、荒い息をつく。
俺はこの一撃に全てを込めた。
体力を注ぎ込み、威力を底上げし。
そこに、想いも乗せた。
人質回収、共闘。
あのモルフェウス男とは色々あった。
多分あの男、ねじ曲がった性格はしていないと思う。
そう感じたんだ。
おそらく、人間としては良い奴。そう思う。
しかし、あの男は、俺たちのいる場所とは違う場所に立ってる男なんだ。
こんな気持ちを持ってはいけない男なんだ。
何故って、いつか戦うことになるかもしれない男なんだから……
優子と問答し、意見を戦わせていたところを思い出す。
優子と1年前になんかあったらしいな。おそらく、優子が前に言っていた「左遷された原因」だろう。
あのモルフェウス男。
しっかり自分のパートナーが居るのに、優子と関係性を……
あのパートナーで、あいつは何か不満でもあるのか?仲は相当良さそうだよな!?
お前のパートナーのせいで、俺はE.G.Oに苦しまされる羽目になったんだが!?
モルフェウス男は優子を無自覚精神的NTR、ハヌマーンパートナーは、その無自覚な振る舞いでE.G.Oを引き起こす……
彼らは犯罪組織の構成員……!!
俺は彼と彼女への気持ちを切り捨て、そこの想いを拳に乗せた。
すると、力が漲ってくる気がしたんだ……!
あの二人組への気持ちを昇華することによって。
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